支援メンバーからの情報

マンション標準管理規約改正について

マンション標準管理規約改正について 大阪弁護士会

1 はじめに
 平成16年1月、国土交通省は、従来の「中高層共同住宅標準管理規約」を改正し、「マンション標準管理規約」を公表しました。そこで、ここでは、今回どのような改正がなされたのか概略の説明を致します。

2 マンションにとってなぜ「管理規約」が重要なのか
 「標準管理規約」改正の説明をする前に、まずマンションにとって「管理規約」がなぜ重要なのか、を確認しておきます。マンションでは、複数の区分所有者が1棟の建物を区分して所有しているため、どうしても複雑な権利関係、利用関係を調整する必要性が生じます。ペットの問題、騒音の問題、集会室の利用方法の問題、修繕のやり方の問題など、どれ一つとっても区分所有者間のルールがなければ円滑に進みません。勿論、マンションなど区分所有建物の権利関係や管理運営の基本的なルールを定めた法律に区分所有法がありますが、実際にマンションの管理運営を合理的に行い、トラブルが起きるのを未然に防いで良好なマンションライフを営むためには、区分所有者間の共同のルールを定めておくことが極めて有益です。そこで、区分所有法は、区分所有者が全員でマンションの管理を行うための団体(いわゆる管理組合)を当然に構成すると規定するとともに(同法3条)、区分所有者の集会の多数決決議により、マンションの「管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」については、広く規約で定めることを認めたのです(同法30条、31条)。このように管理規約は、管理組合の最も根本的なルールを定めたものとして大変重要な意味を有しています。国で言えば憲法にあたると言えるでしょう。

3 「標準管理規約」とはどういうものか
 次に「標準管理規約」とはどういうものか説明をします。前記のとおり「管理規約」は管理組合の最も基本的なルールを定めた大変重要なものですが、もともと分譲会社や管理会社が個々に作成していたため、内容がばらばらで、なかには不十分なものや不合理なものも見られました。このような事情にかんがみ、管理組合の役員、消費者団体、分譲会社、管理会社等からの意見を踏まえて、「中高層共同住宅標準管理規約」が作成され、昭和57年5月、建設省(当時)は関係業界団体等に対して、今後管理規約を作成するにあたっては、この「中高層共同住宅標準管理規約」を指針として活用するよう通達したものです。このように、もともと「中高層共同住宅標準管理規約」は、「分譲業者がマンションを分譲する際の標準的モデル」と位置づけられていたのですが、今度の改正で、「管理組合が各マンションの実態に応じて、管理規約を制定・変更する際の参考」という位置づけにされ、名前も「マンション標準管理規約」と変更されました。いずれにしても、典型的な管理規約のあり方を示すものとして大変重要なものです。

4 「標準管理規約」はなぜ改正されたのか
 それでは今回なぜこの「標準管理規約」が改正されたのでしょうか。その理由は大きく分けると、[1]マンション管理に関する新しい法律や法改正が行われたこと、[2]マンションを取り巻く情勢が様々な面で変化したこと、の2つがあります。まず、[1]ですが、平成13年8月「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(以下「適正化法」)が、平成14年12月に「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」(以下「円滑化法」)が施行され、さらに平成15年6月には区分所有法の一部改正が施行されました。「管理規約」は管理組合の最も基本的な自治ルールですが、当然、区分所有法などの法律に反することはできません。また適正化法では「マンション管理士」などの新たな専門家が創設され、円滑化法では建替えの主体となる「建替組合」に関する規定が新たに整備されました。これらを踏まえた必要な改正が行われた、ということです。次に[2]のマンションを取り巻く情勢の変化は様々なことが挙げられますが、例えば、建築後30年を越えるマンションが17万戸程度あり10年後には100万戸になると試算され、大規模修繕や建替えを検討するマンションが急増すると予想されていること、全国で約430万戸・約1100万人が居住するという状況下、マンション内でのコミュニティ形成の重要性が認識されるに至っていること、昨今の不況の影響もあり未納管理費問題で悩むマンションが急増していること、防音・断熱などの環境問題や防犯意識の高まりなどが挙げられます。

5 「標準管理規約」改正のポイントは
 それでは今回の「標準管理規約」改正のポイントはどこにあるのでしょうか。その詳細は国土交通省のホームページなどをご覧頂くとして、以下、ポイントだけおさえておきます。なお、条文はいずれも単棟型です。

(1)法改定に伴う改正
[1] 専門知識を有する者の活用
 適正化法の規定を踏まえ、管理組合は、マンション管理士その他マンション管理に関する各分野の専門的知識を有する者に対し、管理組合の運営その他マンション管理に関し、相談したり、助言、指導その他の援助を求めたりすることができることとし(34条)、そのための費用を管理費の支出事項として規定(27条第9号)しました。これまでにも大規模修繕を検討する場合に建築士の協力を求めたり、管理費滞納問題で弁護士の協力を求めたりしたケースはありましたが、より身近に日常的にマンション管理の専門家の協力を得つつ、管理組合運営を行うことを提言したものと理解できます。
[2] 建替えに関する規定の整備
 前記のとおり、10年後には建築後30年を超えるマンションが100万戸を超えると試算され、老朽化マンションの建替え問題は一つの社会問題となる可能性があります。このため、より建替え決議を行いやすいよう区分所有法の改正(「過分の費用」要件の削除)が行われ、また他方で建替え決議に至るまでに説明会開催を義務付けるなど、より慎重に手続を進めることを要請する改正も行われました。さらに、円滑化法制定により、建替え決議後に法人格を有する建替組合設立を認めること等で、マンション建替えという大事業遂行の筋道が示されました。しかしながら、これら法改正が行われても、建替え決議の前段階の調査が円滑に行われることや、建替え決議後、建替組合設立までの段階で資金的裏付けができていなければ、実際のマンション建替えは円滑に進みません。そこで、建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査に関する業務を、管理組合の業務として追加(32条第4号等)するとともに、そのための費用を修繕積立金から取り崩すことができる事項として追加(28条第1項第4号等)しました。さらに、建替えに係る合意の後も、建替組合の設立認可等までの間は、管理組合消滅時に建替え不参加者に帰属する修繕積立金相当額を除いた額を限度として、建替えに係る計画、設計に必要な事項の費用を修繕積立金から取り崩すことができる旨を規定(28条第2項等)しています。
[3] 決議要件や電子化に関する規定の整備
 (イ)従来の区分所有法17条1項では、共用部分の変更について、著しく多額の費用を要する行為を実施する場合には、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の特別多数決が必要とされており、このため建物の維持・保全の観点から実施される定期的な大規模修繕までが特別多数決が必要とされ、建物の適正管理に支障が生じる場合があるとの指摘がされていました。そこで、先般の区分所有法改正で共用部分の変更について、その形状または効用の著しい変更を伴わないものは、普通決議で足りるとされました。この改正を踏まえ、普通決議で実施可能な範囲を「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」と規定(47条第3項第2号等)するとともに、普通決議で実施可能な工事例、特別決議を必要とする工事例がコメントに記載されました(47条関係)。コメントでは、バリアフリー化の工事、耐震改修工事、防犯化工事、IT化工事、計画修繕工事など、近時よく行われる工事を具体的に挙げた上で、普通決議で足りる場合と特別多数決が必要な場合を解説しています。いずれの決議によるべきかは、場合によっては決議の無効など重大な問題にも繋がる点ですから、是非とも、このコメントを参考にして頂き、また疑問があれば弁護士・建築士などのアドバイスを受けるようにして頂ければと思います。なお、管理規約を改正するまでは、管理規約上は著しく多額の費用を要する共用部分の変更には特別多数決が必要とする規定が残ることとなりますが、基本的には今般の区分所有法改正で、たとえ著しく多額の費用を要する共用部分の変更であっても、「形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」であれば、普通決議で足りると解釈されると思われます。(ロ)さらに、改正区分所有法の規定を踏まえ、電磁的記録による議事録作成や電磁的方法による決議等に関し、管理組合における電磁的方法が利用可能な場合、利用可能ではない場合に分けて規定を整備(49条・50条等)しています。

(2)マンションを取り巻く情勢の変化を踏まえた改正
[1] 新しい管理組合業務の追加
 (イ)今後老朽化マンションが急増すると、ますます適切な修繕を適切な時期に行うことが必要とされます。そしてそのためには、工事施工業者や修繕の費用、個所、時期等の修繕についての履歴情報を整理して後に参照できるよう管理することが大変重要になってきます。そこで、修繕等の履歴情報の整理及び管理等(32条第6号等)を管理組合の業務として規定しました。(ロ)マンションに関するトラブルの法律相談では、最低限のコミュニティがマンションの区分所有者の間に形成されていれば、ここまで大きな問題とならなかったのに、と思わされることがよくあります。また、大規模修繕などを比較的うまく進めることができたマンションでは、日常的なコミュニティが形成されていたケースが多いようです。このようなことを踏まえ、管理組合の業務として、地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成(32条第15号等)を規定しています。
[2] 未納管理費の請求に関する規定の充実
 弁護士が管理組合から受ける相談で最も多い相談はやはり未納管理費の問題です。去る平成16年4月23日、最高裁判所はマンション管理費は5年間で請求権が消滅する「定期給付債権」(民法169条)にあたるとの判断を示し、今後はますます未納管理費の請求は速やかに且つ適切に行う必要が出てきました。管理費はマンションの維持、管理の財源でありその滞納は適正管理を脅かす問題ですから、滞納問題に適時適切に対応できるよう、共用部分の管理に関する事項は、原則総会決議で決するところ、未納の管理費等の請求に関しては、理事会決議により、理事長が、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる旨などを規定(60条第3項等)しています。
[3] 環境問題、防犯問題への対応の充実
 昨今の防音・省エネなどの環境問題や防犯問題への意識の高まりを受け、これらの性能向上を目的とする工事を希望する管理組合や区分所有者が増えてきています。そこで、窓ガラス、窓枠等の開口部に関する工事で、防犯や防音、断熱等の住宅の性能の向上や省エネなど地球環境に役立つ工事については、まず、管理組合がその責任と負担において計画修繕として実施するものとしつつ、仮に管理組合が速やかに工事を実施できない場合は、区分所有者の責任と負担で実施することについて細則を定める旨を規定(22条等)しました。たとえば区分所有者が先に工事をする場合、自費で行うこととなると思われますが、後になって管理組合全体でやると決められた場合、その費用負担をどのようにするか、などを細則で定めることとなると思われます。

6 おわりに
 適正化法4条1項では、「管理組合は、マンション管理適正化指針の定めるところに留意して、マンションを適正に管理するよう努めなければならない」とされ、他方、同法5条では、「国…は、マンションの管理の適正化に資するため、管理組合…の求めに応じ、必要な情報及び資料の提供…を講ずるよう努めなければならない」とされました。このため、前記のとおり、今回の改正により「標準管理規約」は、「管理組合が各マンションの実態に応じて、管理規約を制定、変更する際の参考」という位置づけとされました。皆さんのお住まいのマンションはそれぞれ建築年数や置かれた環境、住民の考え方も色々異なりますので、全ての管理規約を今回の改正されたものに統一する必要はありません。ただ、今一度、現在の管理規約を見つめなおして、その実情に応じた改正を検討されることをお勧めします。


大阪弁護士会
http://www.osakaben.or.jp/