判例教室

管理費等を自社名義の定期預金にした管理会社が破産した場合は?/東京高等裁判所 平成12年12月14日判決

東京高等裁判所 平成12年12月14日判決 (上告受理申請中)
金融法務事情1621号33頁〜

事案

  マンション分譲業者Aは、分譲に際し、買主に対して自ら作成した管理規約の承認を求め、さらに子会社であるマンション管理会社Bとの間で管理委託契約を締結させていました。管理規約ではBが管理者となり、各区分所有者は管理費・修繕積立金などをBに支払うとされ、管理委託契約ではBは経理事務・修繕事務・設備保守等を行い、各区分所有者から支払われた管理費から必要な費用や管理報酬を受取ることとされていました。これに基づき各区分所有者は、BがC銀行に開設した「B名義の普通預金口座」に管理費などを支払っていきました。この口座はBが管理している各マンションごとに専用とされ、他のマンションの管理費等やB固有の資金が入金されることはありませんでした。その後、Bは管理費等がある程度多額になると普通預金を「B名義の定期預金」(これも各マンションごと)にし、最終的にC銀行はBに対する貸付金の担保としてこの定期預金に質権を設定していました(預金通帳及び銀行印は一貫してBが保管)。
 ところがBが破産宣告を受けるに至り、C銀行が質権を実行して定期預金をBに対する貸付金の回収に充てたため、この定期預金の帰属を巡ってBの破産管財人、C銀行、マンション管理組合法人の間で裁判となりました。なお、Bは毎年、各マンションごとに、「管理費収支決算書」等を作成して全区分所有者に配布しており、その中には上記定期預金のことが記載されていました。またBは管理組合の理事からB名義の預金の名義変更を求められた場合には、これらの預金は管理組合に帰属する財産であるとの考えのもとに、管理組合の理事名義などに変更し、印鑑も変更していたという実績がありました。

判決の要旨

 判決はまず、預金者の認定について、自らお金を出して自分の預金とする意思で銀行に対して自ら又は使者・代理人を通じて預金契約した者が、特段の事情がない限り当該預金の預金者であると解するのが相当、という最高裁判所の判決を引用しました。
 そして管理者であるBは、法律上、管理業務の執行者であり、とすれば各区分所有者が管理費等の支払義務を負うのは管理組合に対してであり、管理者Bは管理費を受領・保管する権限はあるが管理費等の債権自体は管理組合に帰属するのが相当である、としました。
 左記「事案のあらまし」に述べたような事実関係においては、Bは本件各マンション分譲後一貫して、各マンションの区分所有者団体の「管理者」の職務として、それらの管理費等の金銭を管理してきたものであり、各預金の開設行為も各区分所有者団体の預金として行ったものというべきである。結論として、各マンションの区分所有者団体は、本件定期預金について、自らの出損によって、自己の預金とする意思で、管理者たるBを代理人として銀行との間で預金契約をしたものであり、本件定期預金の預金者であると判断しました。
 さらにC銀行の質権設定契約の有効性については、定期預金の帰属者が管理組合であるにもかかわらずBの預金であるとの前提で質権を設定したことにつき注意義務を尽くしたとは言えないとして無効と判断し、各マンション管理組合に対して預金を払い戻すよう命じました。

ひとことコメント

 上記判決では結論としては管理組合が勝訴しています。しかしながら、この判決で管理組合が勝訴したのは、管理会社Bが区分所有法上の「管理者」と位置付けられており、管理組合の代理人と考えやすかったこと、B管理会社が、受託しているマンションごとに預金口座を開設し、他の資金と一切混同していなかったこと、B会社の認識としても各預金がマンション管理組合のものと考えており、管理組合から要望があれば名義変更などに応じていたこと、銀行もこれらの事情を知り、または知り得るべき立場にあったため質権設定が無効とされたこと、などの事情があったからと考えられます。
 仮にBが自己固有の資金と混同したり、複数のマンションの管理費を同じ預金口座にしていれば(これらの事情は外部からは通常分かりません)、管理組合の請求は認められなかったと考えられます。近時の不況により管理会社の倒産も多くなっている昨今、管理組合とすれば最低でも管理費・修繕積立金等の口座は管理組合名義にすることと、場合によっては預金通帳や銀行印は管理組合保管とするなどの対応を考えるべきでしょう。