判例教室

管理費の未納者を公表する立て看板の設置/東京地方裁判所 平成11年12月24日判決

東京地方裁判所平成11年12月24日判決(判例時報1712-159)

事案

 別荘地の設備管理のために設置された町会(法的には団地管理組合にあたる)の会長が、管理費の長期滞納者に対し、「管理費長期滞納者一覧表」としてその地区番、氏名、管理費と未納開始月及び滞納期間を立看板を設置して公表したところ、同会長に対し、同人から立看板により名誉を毀損されたとして立看板の撤去と損害賠償を請求した事例。

判決の要旨

 立看板の設置に至る経緯(管理費滞納者に対しては毎月請求書が送付され滞納額等が通知されていたこと、総会において出席者から長期滞納者に対する非難がなされ滞納者に対しては氏名発表も含め徹底追及するとの緊急動議が出され、その取扱を役員会に一任することが可決されたこと、役員会は会則の規定の適用により3年以上の滞納者につき会員サービス停止を決定し、該当者に対しサービスの停止と滞納者の氏名公表ならびに支払意思があれば公表は中止することを通知したが、管理費の納入入や支払の意思ある旨の連絡はなかったこと等)、その文言、記載内容(単に管理費の滞納の事実及びその滞納期間等を摘示したもので、その内容は虚偽でないこと)、設置状況、設置の動機、目的(管理費を支払っている会員との公平を図るべく、サービス停止を関係者に知らせ、ゴミステーションの利用等町会の提供するサービスの利用をさせないようにするため、立看板の大半をゴミステーション付近に設置したものであり、公表という措置そのものがもつ制裁的効果はあるとしても、ことさら不当な目的を持って設置したものといえない)、設置する際に採られた手続(前記のとおり、また、町会は管理費を一部でも支払えば氏名を削除するという対応をとっていた)などに照らし、同会長の立看板の設置行為は、管理費未納会員に対する措置としてやや穏当を欠くきらいがないではないが、別荘地の管理のために必要な管理費の支払いを長期間怠る滞納者に対し管理費の支払いを促す正当な管理行為としての範囲を著しく逸脱したとはいえないとして、同会長の行為は不法行為を構成しないとして、請求を棄却した。

 

ひとことコメント

 長期管理費滞納者に対する制裁として、氏名を公表したいという相談がよくあります。
 本件は、管理費滞納者の一覧表を立看板にして掲示したという事案ですが、判決は、本件についてのかなり特別な事情を考慮して、不法行為にあたらないとしました。
 しかし、氏名公表を無条件に認めているものではなく、「管理費未納会員に対する措置としてやや穏当を欠くきらいがないではない」としており、公表内容、方法、事前手続いかんによっては、また、専ら制裁のみを目的とする場合などには不法行為と認められる場合もあり得ると思います。(公表の内容が事実に反しないというだけで免責されるものではありません)