支援メンバーからの情報

区分所有法の改正について

区分所有法の改正について 大阪弁護士会

1 はじめに
 平成14年12月、区分所有法(以下単に「法」と言います。)が大幅に改正され、平成15年6月1日から施行されました。今では私達の暮らしにマンションは切っても切れないものになっており、関心をお持ちの方も多いと思いますので、今回はこの改正の概要をお知らせします。

2 改正の項目と内容
 今回の改正は大きく分けると(1)管理の適正化に関する改正と(2)建替えの円滑化に関する改正が中心です。以下、その概略を説明します。

(1)管理の適正化に関する改正
[1] 共用部分の変更(法17条改正)
 マンションの共用部分の管理は法18条、39条1項により集会の普通決議(区分所有者及び議決権の各過半数)により行われることになっていますが、共用部分の「変更」に該当する場合には、法17条で区分所有者及び議決権の各4分の3以上の特別多数決が必要とされています。そして、改正前の条文の文言では、「共用部分の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する。」とされていたため、10年、20年が経過した後に計画的に行われる大規模修繕も「著しく多額の費用を要する」として特別多数決が必要と解される余地がありました。しかしながら、このような計画的に行われる大規模修繕までもが共用部分の「変更」にあたるとして特別多数決が必要とされると、建物の維持・保全に必要な修繕を機動的に実施できないとの批判がありました。そこで今回の改正法では、「共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く)は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する。」とし、「形状又は効用の著しい変更」を伴わない以上、集会の普通決議によれば足りることを明確にしました。この点、「形状又は効用の著しい変更」にあたるかどうかは、変更を加える箇所・範囲・態様・程度などを総合的に判断することとなります。例えば階段室を改造してエレベーター室にする場合は「形状の著しい変更」に、集会室を廃止して賃貸店舗の転用することは「効用の著しい変更」に該当すると考えられますが、マンションのバリアフリー化やIT化等を建物の基本的構造部分を取り壊さずに行う場合には、普通決議で足ることとなるでしょう。
[2] 管理者等の権限の拡充(法26条2項改正、47条6〜9項改正・新設)
 今回の改正では、管理者は、共用部分ならびに建物の敷地および附属施設(以下「共用部分等」)について生じた損害賠償金および不当利得による返還金の請求および受領に関し、区分所有者を代理し、また、規約または集会の決議により、区分所有者のために、原告または被告となることができるものとしました。この点、改正前には、例えば損壊行為等の不法行為により共用部分等に損害が生じた場合の損害賠償金や建築工事の瑕疵担保責任に基づく損害賠償金などの請求および受領については、各区分所有者が持分割合に応じて権利行使をするものとされていましたが、管理者が各区分所有者を代理して一元的に請求し受領することができるものとした方が、建物の円滑かつ適正な管理につながるものと考えられるため、このような改正が行われたものです。
[3] 規約の適正化(法30条3項新設)
 「規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない」ということが明文化されました。規約は管理組合の最も基本的なルールを定めたものですが、規約の中には、一部の区分所有者に特に有利な内容が入れられるなど著しく不均衡な内容のものも見られ、区分所有者相互間や、区分所有者と建物の分譲業者との間の争いの原因となるケースがありました。そこで、これまでに規約の適正さが争われた裁判例(例えば、法人区分所有者と個人区分所有者との間で管理費等の負担金額に差を設けた規約の効力が争われた東京地裁平成2年7月24日判決・判例時報1382号83頁、マンション分譲業者で分譲後も引き続きマンションの一部の区分所有権を保有する者が駐車場、屋外広告塔等を専用使用する権利を原始規約において認められていることの効力が争われた事例・東京高裁昭和59年11月29日判決・判例時報1139号44頁)などで実際に考慮に入れられた要素を参考にして上記条項が新設されました。
[4] 管理組合の法人化の要件緩和(法47条1項改正)
 従来は区分所有者の数が30人以上ある管理組合のみが法人格を取得することが認められていましたが、今回の改正では区分所有者の数が2人以上の管理組合に法人格を取得することを認めることにしました。
[5]
規約・議事録等および集会・決議の電子化等(法30条5項・規約、法33条2項・規約の閲覧、法39条3項・集会での議決権行使方法、法42条・集会議事録、法45条・書面又は電磁的方法による集会決議)
 IT時代に相応しく規約や集会議事録を磁気ディスク、磁気テープ、フロッピー・ディスク、CD‐ROMなどにより作成することを認めるとともに、集会における議決権を電子メールなどで行使することができるようにする道を開きました。
[6] 復旧手続の改正(法61条改正)
 建物の一部滅失の場合のうち、建物の価格の2分の1を超える部分が滅失したとき(大規模滅失)の復旧手続を改正するものです。特に従前の条文では買取請求権を誰に対して行使するかは、復旧決議に賛成しなかった区分所有者の意思に委ねられていたため、買取請求が特定の者に集中するという不都合がありました。そこで、(イ)買取指定者制度(決議賛成者の全員の合意で決議の日から2週間以内に買取請求の相手方を指定し、その指定された者がその旨を決議に賛成しなかった区分所有者に書面で通知した場合には、その通知を受けた区分所有者は、その買取指定者に対してのみ買取請求ができる制度)及び(ロ)再買取請求制度(買取指定者の指定がされなかった場合に、買取請求を受けた決議賛成者が、他の決議賛成者に対し、その持分に応じた再買取請求をすることができる制度)を創設しました。また、従前の条文では買取請求権の行使期限が定められていなかったため、実際に工事開始後に行使されるなどの不都合がありました。そこで、復旧決議を行った集会を招集した者が4ヶ月以上の期間を定めて買取請求権を行使するか否かを催告して、この期間を経過したときは買取請求が行使できなくなることとしました。
(2)建替えの円滑化に関する改正
[1] 建替え決議の要件の緩和(法62条改正及び新設)
 従来は、建替え決議を行うためには、集会で区分所有者および議決権の各5分の4以上の特別多数決に加え、「老朽、損傷、一部の滅失その他の事由により、建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至ったとき」という、いわゆる「過分の費用」の要件が必要とされていましたが、今回の改正でこの「過分の費用」の要件が削除されました。というのも、「過分の費用」という要件の意味内容が不明確で、実際にこの要件を巡って訴訟で争われ建替えが進まない事態が生じたためです。また、今後、老朽化して建替えを選択しなければならないマンションが増えると予想される中、建替え決議の要件を緩和すべき、との背景もあったようです。ただ、コンクリートの寿命は実際にはかなり長いと言われ、環境の世紀、リサイクルの時代を考えると、この改正によって安易な建替えが出てこないか、若干心配な点もあります。また、これまでは建替え決議により新たに建物を建築する場合、既存の建物の敷地と同一の土地に建築しなければならないものとされていましたが、この敷地の同一性の要件を緩和し、既存の建物の敷地と同一でなくとも、これと一部でも重なっている土地であればよいとしました。この改正により、例えば敷地に余裕があるケースでは、建替え費用捻出のために敷地の一部を売却することや、逆に規模の大きな建物に建替えるために敷地の買い増しを行って新たな建物を建築することができるようになりました。さらに、従前は新たに建築する建物は既存の建物と「主たる使用目的同一」でなければならないとされていましたが、この要件も廃止されました。その他、招集通知発信時期や招集通知記載事項の追加、説明会開催の義務付などが行われました。
[2] 団地内建物の建替え承認決議(法69条新設)
 従来は複数の区分所有建物が敷地を共通する団地において、その中の1棟の建物を取り壊し、新たな建物に建替えようとする場合の手続規定が設けておらず、各建物の敷地全体が全建物の区分所有者の共有に属する場合にあっては、民法の共有の規定に従うことになり、共有物の変更(民法251条)として敷地共有者全員の合意を要するとの解釈がありました。しかし、実際に敷地共有者全員の合意を得ることは不可能に近く、極く少数の敷地共有者の同意が得られずに1棟の建替えができなくなるのは不合理ではないか、との指摘がありました。そこで、今回の改正では、団地内にある数棟の建物の全部又は一部が区分所有建物であり、かつ、その団地内の特定の建物の所在する土地が団地建物所有者の共有に属している場合には、その団地建物所有者で構成される団地管理組合の集会において議決権の4分の3以上の多数による建替え承認決議が有った場合には、当該特定建物で建替え決議(区分所有者及び議決権の各5分の4以上)があれば、団地内の特定の建物の建替えが実施できることにされました。
[3] 団地内建物の一括建替え決議(法70条新設)
 団地内の建物が全て区分所有建物であり、かつ当該敷地がその団地内の建物の区分所有者の共有に属する場合で、しかも各々の団地内建物を団地全体で管理するという規約が定められている場合には、団地管理組合の5分の4以上の多数で、一括して団地内建物の建替えを行う旨の決議をすることができるとされました。ただし、その集会において各団地内建物ごとに、それぞれの3分の2以上がその一括建替え決議に賛成していなければならない、ということでバランスを取りました。
(3)マンション建替えの円滑化等に関する法律
 また、区分所有法の改正ではありませんが、実際に建替え決議を行ってから、どのように事業を進めていくのかという点に関し、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」も平成14年12月から施行されています。この法律では建替え決議を行った後のマンション建替え組合に法人格を付与し、組合が権利変換計画を定め、計画に従った権利変換を行うことにより抵当権者や借家人などの権利との調整を行うこととされています。手法としては都市再開発法と同様のものであり、これによってマンション建替え事業を円滑に進めようとするものです。実際にこの法律を使った事例も表れています。
以上

大阪弁護士会
http://www.osakaben.or.jp/