セミナー情報

マンション管理フェスタ2017

日時:平成29年9月10日(日)
場所:大阪市立住まい情報センター 3階ホール
マンションの枠を超え地域で支え合い、安心で豊かな暮らしのために取り組む。

<<フェスタで講演>> 超高齢社会におけるマンション居住者の支え合いの必要性と課題

日本福祉大学 学長 児玉 善郎 氏
(こだま よしろう)

私は工学部建築系の大学を出て、今は福祉の大学で学長をさせていただいています。住まいや地域での生活、環境をどのように整えていくのかという研究に取り組んできました。高齢化が進む中、人びとのくらしを支える上では、福祉と住環境の問題を結びつけて考えていくことが重要になってきていると思います。
 
1970年代以降都市部を中心にたくさんの分譲マンションが供給され、時が経ち、入居者の高齢化への対応が大きな課題となっています。私自身も分譲マンションに住まい、管理組合の副理事長や、自治会の副会長を務めた経験があることから、自分自身の問題としてもとらえ、お話をさせていただきます。

■認知症の高齢者が増える
世界に類を見ない超高齢社会が進展しています。2025年には、約680万人の団塊の世代の方々が、すべて75歳以上の後期高齢者になり、認知症高齢者の数が700万人位になるとされています。高齢者のひとり暮らしや、老夫婦で住まわれていても「老老介護」や、軽度認知症の方が認知症の配偶者や親を介護をする「認認介護」が増えていくと考えられています。
 
認知症はアルツハイマー型が一番多く、基本的には脳の収縮でさまざまな障害が引き起こされます。時間や人、場所のことがわからなくなる、あるいは判断する力がなくなったり、出来ていたことが出来なくなります。 マンションの共同生活では、ごみをいつ出していいのかわからなくなる、あるいはごみを出すという「行為自体」がわからなくなることも起こります。
 
また、マンションでは、居住者の高齢化率は一般的な高齢化率より高くなる傾向が全国で多く見受けられます。 2025年に75歳以上の方の3人に1人が認知症になると推定すれば、自分の住んでいる上や下、隣の住戸に認知症の方がいてもおかしくないし、自分や自分の配偶者がいつ発症してもおかしくないのです。

これからの時代は、自分や身近な人がいつ認知症になってもおかしくないと考え、みんなが安心して気持ちよく暮らしていくための居住者同士の関係作りがより重要になっていくと思います。 国も地域包括ケア体制を自治体ごとに整備していくことを、今後の大方針として取り組んでいます。住民同士の支え合いが、マンションに限らず地域の中でますます重要になると思います。
そうは言っても、住民同士の支え合いを何から取り組めばよいのかとお思いでしょうから、そのヒントとなる取り組み事例をご紹介します。

■住民同士の支え合いについて
【マンション管理組合の組織的な取り組み事例】
宮城県仙台市の404戸32階建てタワーマンションでは、東日本大震災時に1階の共用スペースをマンション内の避難場所にして、炊き出しを行うなど助け合った経験から、建物を共有しながら住んでいる者同士が何かあった時は協力し合うことや、住民同士のつながりの大切さを認識し、コミュニティ活動を積極的に取り組むようになりました。
 
日常的にはマンション内で介護予防教室や、看護師さんなどの専門の方による健康教室を月3回程度開催しています。 防災マニュアルも作成し全戸配布して、住民の意識を高めておられます。 2階の共用一時保育のスペースは、住民の高齢化が進みお子さんを預ける人が減ってきたことから、居宅介護を行うスペースに変更することを考えられています。 具体的には、配食サービスや、介護予防の教室の開催、あるいは、昼食を一緒に食べるといった「小規模多機能型居宅介護」の可能性を、検討されています。

【気になる人を身近な居住者が集まって支える取り組み事例】
神奈川県川崎市野川地区は、2万8千人位の方が住まわれている大きな地区で支えが必要な人に対し、ボランティアグループがさまざまな活動を行っています。長く続けておられる活動は、公共施設「いこいの家」を借りた月2回のミニデイです。お昼の時間帯に、高齢者の方に限らず、地区内にお住まいの方なら誰でも参加でき、子育て中のお母さん方も混ざって昼食作りをし、みんなで一緒にわいわい言いながら悩み事や困り事を相談し合う場を提供しています。
 
また、ひとり暮らしの人や、自立した生活をする上で不安のある人がどこにいるのか、それを支えることができるボランティアがどこにいるのかという情報を寄せ合って地図に落とし込む、支え合いマップを活用した取り組みを行っています。この取り組みで興味深いのは、70代、80代のひとり暮らしで「見守りが必要」という赤色のシールを貼っている人に、「料理を作るのが好き」、「自宅を開放してもよい」という支える側のシールも合わせて貼られている人がいることです。
 
見守られる側の人も、支え合いの役割を担ってもらうようにしているのです。この支え合いマップの情報を活用して、ミニデイ以外に、自宅を開放しても良いという人の家で、気になる人を囲んで気軽に話せる場、介護をしている人同士悩みを打ち明けることができる集まりの場等を開催する取り組みにつながっています。これは、この地区には坂が多く、「月2回のミニデイに行くのが大変、もっと身近な場所で集まることができる場が欲しい」という参加者の声から始まったのだそうです。

高齢化の進むマンションにおいても、管理組合のイベントや集会所での集まる場だけでなく、身近な家に集まって気の合う人同士がお茶を飲みながら話ができる場をつくることが必要ではないでしょうか。

【食べることを通じた支え合いの取り組み事例】
神奈川県横浜市の公田町団地という、昭和30年代に開発された集合住宅団地では、空き店舗になった商業施設に、団地の自治会と区役所、地域包括支援センターが連携して、住民同士が支え合う組織「NPO法人お互いさまねっと公田町団地」を立上げました。 そのメインの活動が、食堂設備を整えたコミュニティ食堂です。お昼のみ週5日も営業しています。

近所でひとり暮らしの人がいた場合、みんなで安否確認をしましょうとよく言われますが、ずっと見張っている訳にはいかないですから、こちらの団地では、気になる方が最近見えないよねとなって自宅に電話し、応答がなければ安否を確認、あるいはこのようなメニュ-だから食べにいらっしゃいよと、声かけすることで、何げない安否確認・支え合いにつながっています。洗剤やトイレットペーパーなども食堂の一角で販売して、気軽に買いに来てもらえるようにしています。また、そこでは、脳トレマージャンや、健康体操なども行っています。マージャンだとひとり暮らしの男性も参加してくれるそうです。

NPO法人で中心になって活動している70代の女性は、ほぼ毎日、食堂の準備、青空市の準備に来られています。「なぜそんなに毎日頑張れるんですか?」と聞くと、「私は頑張っているのではありません。ここに来るのが楽しくてしょうがない。ここに来て、毎日のように顔を合わせる人、何げない話をすること自体が自分の生きがい・張り合いになっているし、楽しくなかったらこんなの続けられないですよ。」とおっしゃっていたのが印象的でした。

【複数のマンションが協力した取り組み事例】
宝塚市白瀬川両岸地区に立ち並ぶ民間マンション群では、共通する課題である孤立化・孤立死、支援が必要な居住者への対応について、地域の社会福祉協議会の呼びかけからつながりを作り、近所の8つの分譲マンションが協力して取り組みを始めました。
 
最初は、終活ノートを共通の様式で作成し、各分譲マンションに配布し、記入してもらう取り組みから始めました。もしもの際の連絡先として、かかりつけの病院や親族の連絡先などを記入しておいてもらい、迅速に対応できるようにするというものです。
 
8つの分譲マンションの居住者を対象とした合同説明会を集会施設で何回か開催するうちに、異なる分譲マンションの住民同士がつながる場を作ろうという取り組みへと発展しました。もともと分譲マンション毎には、サロン活動や趣味の活動が行われていました。しかし、大規模なマンションでは、活動の種類や頻度が多くあるのに対して、小規模なマンションでは活動の種類も頻度も限定されていました。そこで、8つの分譲マンションの居住者は、どこのマンションのサロンや趣味活動に参加しても良いということにしました。それにより、自分の好きな催しを選んで参加できるようになるとともに、活動を企画運営している人にとっても、活動が活発になり喜ばれるというように、住民同士の良いつながり作りになっているとのことです。

マンションでは、とかく共有財産を管理するとなると、外部から人が入らないようにすることを考えがちですが、高齢化の対応となると、外部から人が入ること自体が自分たちの財産をよりうまく活用して、生活を豊かにするメリットもあり、これからは発想を変えて取り組んで行く必要もあるのではないかと思います。


■居住者への認知症への理解・啓発の取り組み
認知症への理解については、住民一人ひとりの意識を啓発することが重要です。みんなが、他人事じゃなくて自分のこととして考え、場当たり的対処ではなく、一緒に考えましょうという働きかけがこれから必要になってきます。ただ、マンションの居住者だけの取り組みでは十分ではなく、町内会や区という単位での地域ぐるみの取り組みにも働きかけていくことが必要で、その取り組み事例を紹介します。

【福岡県大牟田市、認知症SOSネットワーク模擬訓練の事例】
大牟田市では、この訓練を2004年頃から実施しているそうです。決められた訓練日に認知症役の人に、小学校区内を朝10時頃から午後3時頃まで歩き回ってもらい、この人は認知症の方だと思えば参加している市民が「大丈夫ですか?」「どちらに行かれるのですか?」と声をかける訓練です。この訓練を始めた最初の年は、参加した市民は9人で、実際に声掛けが出来た人は1人だけでした。
 
それが2010年には、市内全小学校区で実施されるようになり、参加した市民は3000人、声掛けが出来た人はその半分の1500人にもなったそうです。こうした大規模な地域ぐるみの活動に発展すると、自ずと認知症の人に対する理解や認識が高まってきます。マンションの単位であったり、いくつかのマンションで、あるいは地域の戸建ての人も含めた地区単位などの取り組みの広がりが、これからは必要になってくると思います。

■終わりに
マンションの共有財産を管理することは管理組合の大事な役割ですが、それだけでは済まなくなってきています。
究極的には、共有財産を持った共同体として、コミュニティを活かして、いかに居住者が安心して暮らすことができるようにするのか。 これまでにはない、自分たちのマンションの特性や住んでいる人の特性を活かしながら、新たな管理組合の取り組みが求められて来ると思います。

管理組合の役員は、苦情が持ち込まれたりして大変な仕事であることは間違いありません。しかし、大変なことの中でも楽しみを見つけること、単にやり甲斐ということだけでなく、自分が関わることで少しでも住んでいる人たちの笑顔が見れる、あるいは住んでいる人同士の何か助け合いが生まれるという経験を多くの人が共有しながら取り組むことは、マンションという人と人とのつながりの中で暮らしている良さではないかと思っています。

超高齢化が進むこれからの時代は、大変な時代だと思うだけでなく、私たちなりの知恵で生き抜いて行く必要があります。まさに、世界のどこの国も経験をしたことがないことです。この時代をどう工夫して、取り組んでいくかが、全世界から注目されていると思っています。
 
以 上