セミナー情報

平成23年度「マンション管理の基礎知識」基礎セミナー報告

開催日時:2011年7月17日(日)・31日(日)

7月17日(日) 第1日目−1

講座 管理会社とのつきあい方
管理会社とのつきあい方 講師

委託契約内容をしっかり確認し、
より良いパートナーシップを

(講師)
大阪市立住まい情報センター マンション管理相談員
宇都宮 忠(うつのみや ただし)


●業者に任せっきりになっていませんか  一口にマンション管理といっても、建物や共有設備の維持・管理をはじめ、規約の制定、修繕積立金の管理など、その内容は多岐にわたります。こうした業務は複雑で専門的知識も必要なため、管理会社に委託するのが一般的です。そこで、今回は管理会社との上手なつきあい方についてお話ししたいと思います。
 マンション管理を適切に行うには、良い管理会社を見つけると共に、業者と上手につきあっていくことが重要になります。管理業務を委託する場合、管理組合は管理会社と管理委託契約を結び、その契約内容の範囲内で業務を実施してもらいます。ただ、業者に任せっぱなしにしておくと、トラブルを招く恐れがあります。契約内容をチェックし、お互いに緊張感を持って接することが必要です。管理会社が持つ「プロとしてのノウハウ・情報」を活用し、互いにより良い関係を保っていくことが適切な管理への近道です。 ●「管理の主体は管理組合」を忘れずに
 管理会社との契約は、契約によるいわゆる委託・受託の関係であり、マンションの管理の主体はあくまでも管理組合自身です。委託には、基幹事務をはじめ管理業務のすべてを委託する「全部委託」と、一部だけを委託する「一部委託」があります。管理組合として管理会社にどこまでの業務を委託しているのかを委託契約書・仕様書で確認し、お互いが委託業務内容について認識を一致させておきましょう。また、それ以外にも、他のマンションではどうしているのかを訊ねたりして、契約書・仕様書以外の管理会社が持っている色々な情報を提供してもらうのも有益です。 ●契約内容の確認はできるだけ具体的に  管理会社は、委託契約内容以外の業務は原則として行いません。ですから、居住者の代表である理事会は管理会社が行う業務を常にチェックする必要があります。委託契約書には確認しなければならないポイントがいくつもありますが、中でも大切な財産を管理する会計・出納業務は、とりわけ重要な項目の一つです。管理費等の財産の分別管理方法については、平成22 年5 月に、従来の「支払一任代行方式」「収納代行方式」「原則方式」による分類が廃止され、「収納口座」「保管口座」といった口座の性質による分別管理方式(イの方法・ロの方法・ハの方法)となったので、皆さんのマンションはどの方式になっているのか一度確認しておいて下さい。
 また、説明会等では、契約書や仕様書の内容について不明な点、疑問な点があればどんどん質問して、問題点を明確にしていきましょう。たとえば、契約書に「乙は、甲の会計に係る帳簿等を整備、保管する」とある場合、具体的にどんな帳簿があるのか、どこに保管しているのか、あるいは、管理費等の滞納督促について、「電話、自宅訪問、督促状による」とある場合、どこまで、どの期間、実施してくれるのか、などと具体的に確認していくことが必要です。 ●委託管理会社の変更にはパワーが必要  管理会社の委託業務がきちんと実行されているかも確認しておきましょう。作業に不備があれば、改善に向けてよく話し合い、それでも改善されない場合は、別の業者に替えることもできます。ただし、業者の変更にはそれなりのパワーが必要です。苦労して管理会社を変更しても、前より良くなるとは限りません。そうならないためにも、事前に居住者へのアンケートやヒアリング等で不満の内容を具体的に把握するなど、十分な時間をかけて準備し、そのうえでなお必要であれば、管理会社の変更を検討するようにしましょう。管理会社については、(社)高層住宅管理業協会関西支部で用意している業者名簿も参考になります。
 以上、皆さんには、マンション管理の主体は管理組合であることを今一度再認識されたうえで、管理会社と信頼関係、協力関係を築き、上手につきあっていただきたいと思います。

7月17日(日) 第1日目−2

講座 大阪市防災力強化マンション認定制度について
大阪市防災力強化マンション認定制度について 講師

災害に強いマンションを
大阪市が認定する制度です

(講師)
大阪市都市整備局企画部住宅政策課 担当係長
林 敦子(はやし あつこ)


●「防災アクションプラン」を作成し、防災力向上を  大阪市では、2009年より民間のマンションを対象として防災力強化マンション認定制度を実施しています。認定基準では、「建物の安全性」として住宅性能表示制度による耐震性・耐火性の評価が一定以上であることをはじめ、対震枠付玄関ドアの設置などによる「建物内部の安全性」、空地の確保や落下防止対策など「避難時の安全性」、ライフライン停止時の食事やトイレの確保に役立つ「災害に対する備え」、また、マンションの防災上の特色や管理組合や各戸で行う対策等について「防災アクションプラン」を策定し管理規約に位置づけることなどを求めています。
 災害がおこった時には、マンションにお住まいの方々がとまどうことなく対処できるようにするため、日頃から災害時の対応について十分理解していただき、それらの情報を共有いただくことが必要です。本制度の認定基準を参考に「防災アクションプラン」を皆様で話し合って作っていただくことは、お住まいのマンションの防災力向上につながるものと期待しています。

<お問合せ>
大阪市都市整備局 企画部住宅政策課 民間開発グループ
Tel.06-6208-9648

7月17日(日) 第1日目−3

講座 管理費滞納と近隣トラブルの解決に向けて
管理費滞納と近隣トラブルの解決に向けて 講師

対応策のマニュアル化と予防が大切

(講師)
大阪弁護士会 弁護士
木野 達夫(きの たつお)


●管理費滞納者への対応をどうするか  本日は管理費の滞納問題やペット・騒音問題等の近隣トラブルの解決法などについて考えてみたいと思います。
 皆さんも管理費等の長期滞納者には頭を痛めておられることでしょう。管理費は組合運営の大切な資金であり、その滞納には積極的な対応が必要です。滞納を防ぐには、管理費の目的や使途を広報等で知らせ、日頃から組合員の協力と理解を得ておくほか、滞納状態をよく把握したうえで、対応をマニュアル化しておくといいでしょう。一般的に理事は交代制でしょうから、滞納に対してルールづくりをしておけば統一した取り扱いが可能になり、不公平感も生じません。管理会社との役割分担も大切です。管理会社は裁判等を行うことはできません。また、委託契約では管理会社が行う督促業務は限定されている場合が多いので、督促等をどこまでやってくれるのかを普段から確認しておく必要があります。
 滞納が発生した場合、一般的には電話による請求、個別訪問、督促状送付といった順で督促を行うことになりますが、たとえば、1 ヵ月目は口頭(電話)、2 ヵ月目は戸別訪問、3 ヵ月目は内容証明郵便などとマニュアル化しておくといいかもしれません。その他、電話請求では、滞納原因が経済的理由なのか、組合や管理会社に対する不満なのかをよく確かめる。戸別訪問は、冷静に対応するため必ず複数で。文書による請求は、最初は滞納者の郵便受けに、次に配達証明付内容証明郵便、などと対応の仕方を決めておくのもいいでしょう。なお、民法では一般の債権は10 年で消滅しますが、管理費や修繕積立金は定期給付債権と見なされ、時効は5 年なので注意が必要です。念書の作成は時効を中断する効力があるので、これを活用する手もあります。
 そして次の法的処置としては、簡易裁判所による支払督促、少額訴訟、通常訴訟、民事調停等を検討することになります。これらの措置には一長一短がありますが、支払督促や少額訴訟が比較的妥当かと思います。法的措置は総会決議を経るのが原則ですが、より迅速に対応できるよう、理事会決議で足りる旨規約で定めておくことも検討してみて下さい。法的措置を取った後、なお支払いがなされない場合は、強制執行あるいは区分所有権の競売申立を行いますが、このあたりのことは専門家によく相談しましょう。 ●騒音トラブルは対処より予防 会場の様子 マンションのトラブルで今も多いのが騒音(生活音)問題です。これについては明確な法規制がないため、有効な解決策はないというのが現状です。マンションは構造的特性から、普通に生活しているつもりでも音が近隣に聞こえてしまい、これがトラブルのもとになったりします。さらに厄介なのは、社会通念上、我慢できるとされる限界点である「受忍限度」には個人差があることで、足音、椅子を引きずる音、掃除機の音、戸の開閉の音は受忍限度を超えていないという判例はあるものの、残念ながら法的には具体的なガイドラインはありません。マンション生活はお互い様。騒音トラブル予防のためにも近隣とのコミュニケーションの重要性を普段から意識して欲しいと思います。 ●ペット問題を規約や細則に定める  最近の少子高齢化に伴い、ペットを飼いたいという人が増えています。新築分譲マンションでも「ペット可」をうたった物件が多くなってきました。皆さんのマンションはいかがでしょうか。ペット飼育に関しては、標準管理規約には規定がなく、参考コメントとして、禁止する場合、承認する場合それぞれの規定例が掲載されています。ペット飼育を禁止している場合、規約を改正して、飼育を可能にすることはできますが、その場合、「区分所有者及び議決権の各4 分の3 以上の多数」が必要と、かなり重い要件になっています。管理規約でなく、普通決議により使用細則で定めたケースもありますが、大枠は管理規約で定め、細かいところは使用細則で定めるのが本来の姿と考えます。最近は一代限りの飼育を認める例も増えているようですが、いずれにしても、後々トラブルが起きないよう、規約等にきっちりと定めておくことが必要と考えます。 ●漏水も早めに手を打つのが肝心  漏水問題については、まず、漏水が起きたのは専有部分か、共用部分かを確かめるのが先決です。専有部分であれば区分所有者が責任を負い、共用部分であれば管理組合あるいは管理業者が責任を持つことになります。また、いずれに属するのか分からない場合は共用部分と推定し、管理組合が責任を持つとされています。また、屋上排水口のごみ詰まりによる漏水事故は、たとえ管理組合に落ち度はなくても管理組合に責任ありとする判例や、コンクリートスラブと天井板の間の配水管については、『本管』、『枝管』という従来の分類ではなく、建物の機能的な面も踏まえて共用部分とした判例も出ています。水漏れなどのトラブルが発生したら、組合としては、直ちに管理業者に連絡し、できる限り早めに対策を講じるように努めましょう。

7月31日(日) 第2日目−1

講座 標準管理規約について
標準管理規約について 講師

標準管理規約の改正点は
コメント欄にも注目

(講師)
財団法人 マンション管理センター
長田 康夫(おさだ やすお)


●マンション管理の基礎の理解は、なぜ必要か  今回はこのたび改正されたばかりのマンション標準管理規約(7 月27 日発表)の概要のご紹介と管理規約を読む際のポイントを一緒に勉強していきたいと思います。
 全国の分譲マンションストックが550 万戸を超えたこの時期に、なぜ今さらマンション管理の基礎なのか。私はマンション管理適正化推進センターの一職員として毎日、相談をお受けしていますが、相談の多くは、マンション管理の基礎を知っておられれば、相談に来られるまでもなく自ら解決できるのではないかということが多いのです。また、相談に訪れる方々のマンションでは何らかのもめ事やトラブルを抱えておられるケースが多いですが、もめ事はマンション管理において一番よくないことで、深刻化すれば快適な共同生活は望めません。皆さんのマンションがそんなことにならないように、マンション管理の基礎をしっかり理解して皆さんで話し合っていただきたいというのが私の願いです。 ●みんなで考えた規約は、みんなで守る  マンションの専有部分は区分所有者で管理しますが、建物共用部分を維持管理していくのは区分所有者全員です。たとえばリンゴの木を考えてみましょう。リンゴの木というのは、根があり幹、枝、葉があってはじめて果実があるわけで、その果実の部分が皆さんが買われる専有部分なんです。果実を生でかじりたい人が大多数の場合、ジャムにしたい人が水のやり方、肥料の与え方はこうして欲しいといっても、そういう育て方は許されません。それが合意形成ということです。そして、その合意に基づいて必要な育て方や維持管理の方法を規約に定め、みんなで守っていかなくてはなりません。でも全員でやるのは難しい、誰かに代表してやってもらおうということで、一般的な管理組合では、管理者として理事長を決めます。管理する者にはみんなで決めた規約を守ってもらいますが、それでも規約にない勝手な行動をしてしまう可能性があります。それを監視するのが監事であり、理事会、理事長の業務の執行や財産状況の監視をする重要な役割を担っています。 ●標準管理規約と管理適正化指針  では、国はどう手助けしているのか。国が用意しているのが「区分所有法」と、マンションに特化した「マンション管理適正化法」という2 つの重要な法律です。しかし法律だけでは分かりにくい、こういう風な規約があれば一般的に活用しやすいのではと国交省が考えて書かれたのが「マンション標準管理規約及びマンション標準管理規
約コメント」です。ただし、これはあくまでも文字通り標準であり、皆さんが実際に管理規約を定めたり変更する場合は、このままではなく、それぞれのマンションの実態に合った形に手直しして利用していただくことになります。平成17 年には、マンション管理を見直し、向上を図る目的で、「マンション管理標準指針」を発表し、具体的な項目について標準的な対応と望まれる対応を示しています。このたびの標準管理規約の改正もこの指針を実践したものといえるでしょう。 ●標準管理規約を読むときはコメント欄にも注目  今回のマンション標準管理規約の改正は、役員の資格要件の緩和(現住要件の撤廃)を行うことなどが主な内容となっており、「マンションに現に居住する」という要件を撤廃することで、居住者の高齢化、賃貸化や管理への無関心化などに伴う役員のなり手不足という課題に対応しています。また、組合員の出席によらない総会での議決権行使(議決権行使書や委任状)の取り扱いルールが明確化され、「組合員は、代理人により議決権を行使する場合は、誰を代理人にするかについて主体的に決定することが望まれる」と示されています。これは条文でなくコメント欄に書かれています。誰しも条文はきちんと読んでもコメントまでは注意を払わないものです。コメントに重要事項が書かれていることもあります。皆さんが標準管理規約を読むときは、コメント欄にも目を通していただきたいと思います。

7月31日(日) 第2日目−2

講座 吹付けアスベスト除去等補助制度
吹付けアスベスト除去等補助制度 講師

アスベスト含有調査・除去等の
補助制度をご利用ください。

(講師)
大阪市計画調整局 建築指導部監察課 課長代理
久木野 孝治(くきの たかはる)


●制度を利用した早期の対策を  アスベストによる健康被害のニュースは今も後をたちません。あなたのマンションは大丈夫でしょうか。大阪市では、こうした不安を解消するために「大阪市民間建築物吹付けアスベスト除去等補助制度」を制定し、市内の既存建築物にある露出した吹付けアスベストの含有調査や除去工事等を実施するための費用を補助しています。分譲共同住宅の対象となる部位は共用部(付属する機械室・電気室等を含む)で、申請者は管理組合の代表者。アスベスト含有調査に対する補助金は対象費用の全額かつ1試料あたり10万円の上限金額内、アスベスト除去工事等に対する補助金は対象費用の3 分の1かつ100万円の上限金額内となっています。補助制度のご利用は今年度までとなっておりますので、健康被害防止のためにも、アスベストのリスクマネジメントの観点からも、この制度を利用した早期の対策をお勧めいたします。なお、この制度のご利用には事前協議が必要です。対策を行う前に必ず下記までご相談ください。

<お問合せ>
大阪市計画調整局 建築指導部 監察課
Tel.06-6208-9318

7月31日(日) 第2日目−3

講座 大規模修繕工事と長期修繕計画について
大規模修繕工事と長期修繕計画について 講師

長期修繕計画に基づいて、日常点検や
修繕工事を実行することが重要

(講師)
総務省 テレビ受信者支援センター
衣笠 泰博(きぬがさ やすひろ)


●古いマンションストックが社会問題化  平成21 年末の調査では全国のマンション数は約562 万戸で、1 年間におよそ16 万戸増えています。昭和40年代以来、マンションはどんどん増え続け、また、昭和56 年には建物の耐震基準が変わり、今年でちょうど30 年になります。つまり、昭和56 年以前に建てられた旧耐震のマンションは築30 年以上を経ており、老朽化が進み、いわゆる中古ストックになっていっていることを示しています。
 日本人の人口や世帯数の推移を見ると、2005年を境に人口は減り始め、世帯数も2015 年から減っていくと考えられています。人口が減るのにマンションが今と同じように増えれば、住宅が余っていくのは当然のこと。マンションの資産価値が下がり、空き家や分譲マンションの賃貸化は今後も進みます。この先東日本大震災の話題が下火になれば、中古不良ストックや旧耐震の建物をどうしていくかという問題が顕在化してくるでしょう。
 こうした状況を背景に、管理組合や区分所有者にいま何が求められているのでしょうか。建物は古くなっていくけれど、適宜適切な修繕をきちんと行い、コミュニティを熟成させていけば、いわばビンテージマンションといわれるような古くて値打ちのある評価の高い建物になっていく、そういうマンションにすることを考えながらしっかり管理していくことが重要だと思うのです。 ●「大規模修繕」成功のカギは、周到な準備  大規模修繕工事はなぜ必要なのかとよく聞かれますが、これに対しては、「大規模修繕をきちんと行えば、建物の劣化を防ぐだけではなく居住者のコミュニティの醸成と資産価値の維持のために、必ず大きな力になりますよ」とお答えしています。では、どのくらいの周期で行えばいいのかというと、建物状況によって変わってきますが、外壁や鉄部分の補強、屋根防水、給排水管、建物の物理的な耐用年数などを目安に、築後10年〜15年程度の周期で実施するのが一般的です。
 大規模修繕にはそれなりの準備期間、少なくとも2、3年が必要です。管理組合としてプロジェクトを成功に導くことができるかどうかは、一にも二にもこの「準備」にかかっていると考えてください。準備は工事過程の7 割ほどを占め、足場が立てばもう成功したも同然です。
 管理組合での事業の進め方は、企画→説明・認知→合意→実行→確認・監査という順になります。もちろんその前に、工事がなぜ必要なのか、どんな工事をするのかを全員で認識する必要があり、そのためにも、さまざまな段階で情報の共有が欠かせません。準備ができた後も、施工会社の選定や工事の発注など、大規模修繕はやることが多く、大きな努力とパワーが求められますが、管理組合を主体に1、2 年掛け余裕のあるスケジュールで、居住者みんなで力を合わせ、ぜひ成功させましょう。
 なお、具体的な進め方等については、住宅金融支援機構が発行する『大規模修繕マニュアルプラス』などが参考になります。また、大阪市には「分譲マンションアドバイザー派遣制度」といって、管理組合で実施する大規模修繕工事の勉強会に専門家を派遣してくれる制度があります。当センターが窓口になっていますので、利用されてみてはいかがでしょうか。 ●「長期修繕計画」で維持管理を計画的に  次に、長期修繕計画についてお話ししておきます。長期修繕計画が必要なのは、点検や診断によって不具合が生じる前に予防的措置をとるいわゆる「予防保全」と、そのために必要な「積立金の確保」に不可欠だからと考えましょう。周期は30年程度(長周期の設備更新を含む)が目安になると思います。
 「長期修繕計画」やそれに伴う「修繕工事と資金のシミュレーション」を作成し、目に見えるようにしておけば、いつどのような修繕を行うのか、どの程度の費用が必要なのかを事前に知ることができます。作成のポイントとしては、今後20 年〜30 年間に行うべき修繕内容と時間、必要な費用の目安を明確にし、その費用を計画的に積み立てていくことです。こうすることによって、資料を基に、積立金の範囲内で修繕費に充当することができるし、無駄な修繕による悪循環も防げます。
 長期修繕計画は策定さえすればいいというものではありません。これに基づいて、日頃の点検作業や修繕工事をどう実行していくかが重要なのだとご理解ください。 ●奈良の古寺が千年以上の寿命を保つ理由  最後に、大規模修繕に関連して、私はよく法隆寺を話題に取り上げます。このお寺は7 世紀に建立され、1300年が経過しています。もちろんここに至るまでは全面解体工事や改修工事が何度も行われています。さらにもう一つ、奈良の元興寺という古寺には、屋根瓦などに、法隆寺より100年程古い飛鳥寺から移築された部材が今も使われていることがわかり、屋根防水の素晴らしい技術が大きな注目を浴びています。これらの例を見るだけでもわが国の修繕技術や屋根防水の技術の高さがうかがえます。これらの古寺が1千年以上の寿命を保っているのに比べ、現代のマンションの仕上材が10年しかもたないのではあまりにもお粗末です。今の優れた部材と高い技術で補強すれば、20 年、30 年といわず、100 年でも持たせられるのではないでしょうか。日頃の修繕をきっちり行い、丁寧に手を入れて大事に使えば、マンションもいつまでも長く持つんだと再確認していただければ幸いです。