セミナー情報

平成23年度「マンション管理の基礎知識」基礎講座報告

開催日時:2011年10月29日(土)・11月19日(土)

10月29日(土) 第1日目-1

講座 裁判外紛争解決手続き(ADR)について
裁判外紛争解決手続き(ADR)について 講師

専門家の力を借りて、幅広い
民事紛争の解決を図りましょう
(講師)
公益社団法人 総合紛争解決センター
蒲田 隆史(かばた たかし)


●裁判に頼らずに、各種紛争を解決  ご来場の皆さんも、マンション管理などに関連してさまざまなトラブルをご経験のことと思います。紛争が起きた場合、これを解決する方法としては、通常、裁判所による裁判ということになりますが、裁判では提出した証拠に基づいて判断が下されるため非常に厳格な手続きが必要となり、実際かなりの労力が必要です。紛争の当時者間では話がまとまらないのに、いざ裁判となると二の足を踏んでしまうのもこのためです。民事調停などの方法もあるけれど、それでは足りない、裁判手続きとは別に何かいい方法はないないだろうかということで、いわゆる民間型のADR(裁判外紛争解決手続)機関をつくろうという機運が高まりました。そこで、こうした需要に応えるため、2007 年に裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律、いわゆる「ADR 促進法」が成立し、それに基づいて全国各地でADR 機関の設立が進みました。大阪でも2009 年に「総合紛争解決センター」が設置されいます。
 当センターは、大阪弁護士会をはじめ各種専門家団体、経済団体、消費者団体、自治体等が横断的に参加している総合的な紛争解決機関で、法務大臣の認証を受けていることから、時効中断、調停前置に関する特例等、法的効力が付与されています。 ●手続きは簡単、迅速。経済的な負担も少ない  当センターは各専門家による専門的知識を活用し、民事や家事に関する紛争について、当事者の実情に即した、公平かつ妥当な解決を迅速に図ります。何より大きな特長は、裁判などと違って、手続きが簡単なこと。センター事務局では随時申し立てを受付けており、申し立てはご本人でもできるし、専門家がお手伝いすることも可能です。申し立てを受けると、それぞれの件にふさわしい専門家を選び、原則として3 名構成で和解あっせんをすることを基本としています。事案にもよりますが、解決までの時間も比較的短期で済むことが多く、一般の訴訟では普通1〜3 年くらいかかるところを、この手続きを利用すれば、相手方が手続きに応じた後、3ヵ月(月1 回の調査、意見聴取等、全3 回)程度で解決するよう努力しています。この場合、相手方にセンターまで来てもらうことが必要になりますが、裁判所ほど敷居が高くないため来てもらいやすいという利点もあるようです。経済的負担が少なくて済むのも大きな利点で、多くの方に手軽にご利用いただけるよう、申立手数料を紛争額にかかわらず一律10,500 円という低額に押さえています。また、解決時には成立手数料・費用を当事者双方で分担して納付していただくことになりますが、成立手数料についても、これは一例ですが、紛争解決額100 万円未満で15,750 円となっており、これならそれほど負担がかかりません。 ●民事に関するどんな紛争にも対応  紛争の解決手法には「和解あっせん」と「仲裁」の2つがあります。「和解あっせん」は、和解あっせん人が事実関係や事情をお聴きし、その解決に向けて利害調整をしたり、解決案の提示を行ったりする手続きです。「仲裁」は、民事紛争の解決を仲裁判断によって行うもので、当事者の仲裁合意に基づき仲裁人が判決に代わる判断をする手続きです。いずれも非公開で行われるので、紛争の内容が外部に漏れる心配はありません。
 また、当センターは民事に関するあらゆる紛争の解決に
ご利用いただけます。その中でも特に、
 ①紛争性が明らかであり、当事者同士の話し合いでは解決が困難な事件
 ②当事者が話し合いによる円満な解決を希望している事件
 ③時間と費用を要するため、当事者が裁判手続きの利用を躊躇している事件
 ④複数の異なる分野の専門家の知識を活用することが解決に必要となる事件
などの事案には、当センターがお役に立てるでしょ ●続発するマンションでの紛争にもお役立てを  最近は紛争も複雑化、多様化しています。皆さんのマンションでも区分所有者と管理組合、管理組合と管理会社、管理会社と区分所有者、さらには左右上下の隣家の区分所有者同士などの間でさまざまな紛争が起きる可能性があります。たとえば、マンションで水漏れがあって紛争になったとしましょう。その場合、裁判では原告が立証しなくてはならないし、誰がどう責任を取るのか判断が難しい。そんな場合はこのセンターを利用してみてはどうでしょう。2011年度の申し立て数は144件(解決成立は58 件)と、実績も向上しています。皆さんも、理事会などで、こんな機関があることをお話ししていただき、民事上の紛争でお困りのことがあれば、ぜひ当センターのご利用をご検討いただければと思います。

<お問合せ>
総合紛争解決センター 事務局
〒530-0047
大阪市北区西天満1-12-5 大阪弁護士会館1 階
TEL.06-6364-7644(平日 9:00〜17:00)
http://www.soufun.or.jp

10月29日(土) 第1日目-2

講座 マンションの防犯について
マンションの防犯について 講師

浸入犯罪から
マンションを守りましょう
(講師)
NPO法人 大阪府防犯設備士協会
大室 美智子(おおむろ みちこ)


●防犯対策の基本・・・防犯環境設計  大阪府防犯設備士協会は2001 年に発足し、防犯講習会や防犯診断などの活動を通じて、安全・安心を呼びかけてまいりました。当協会は防犯機器メーカー、警備会社、施工業者、個人などで構成されるNPO 法人で、まもなく10 周年を迎えることになります。本日はマンションの防犯について、できるだけ具体例をまじえながらお話ししたいと思います。防犯の第一歩は、自分のものは自分で守るということです。安全は、今では水と同じく、タダではありません。また、昔から「検挙に勝る防犯なし」といわれておりますが、いくら検挙されても奪われたものの多くは戻りません。自分だけは大丈夫と思わず、「予防に勝る対策なし」として、万全の防犯対策をお願いします。防犯対策の基本的な考え方として防犯環境設計があります。これには4つの手法があり、その第1 は「対象物の強化」で、建物そのもの、特に出入口や窓を強化することです。第2 は「接近の制御」で、オートロックや囲いを設け、出入口を限定する。うちそとの区別をつけて接近しにくい環境をつくること。第3 は「監視性の確保」で、照明を明るくし見通しを良くする。また、防犯カメラを設置することによって、いつも誰かに見られていると意識させること。第4は「領域性の確保」で、入居者・周辺地域とのつながりを深めるととに、敷地や周辺の維持管理を強化すること。この4 つの手法が防犯対策の基本です。 ●無締りの被害多発・注意!  窃盗を含む刑法犯の認知件数は2002 年をピークに減少していますが、世界一安全といわれた昭和の時代に比べるとまだまだ高い状況にあり、最近は都市型の凶悪犯罪も増えていることから、マンション居住者からも安全を求める声が高まっています。中高層住宅への泥棒の侵入手口について、昨年とその5年前を比較したところ、5 年前は一位だったピッキングなどによる「錠開け」が、昨年は半分近くに減少したのに対して、「無防備(無締り)」が昨年はトップにランクされているのが目を引きます。これは、オートロックを過信し施錠がおろそかになったのではないかとも考えられます。戸締りの基本はやはり確実な施錠です。ごみ捨てなどちょっとの外出はもちろん、在宅時でも確実な施錠を習慣づけることが大切です。オートロックを設置していても安全ということはありません。足場を利用した乗越えやよじ登り,居住者について入る「共連れ」、自動ドアの不正開扉などにも注意が必要です。これからは、共連れ等に対して、声掛け等を行っていくことも必要でしょう。ただし、危険を感じるときは無理をせず警察に通報してください。また、来訪者があっても不用意にドアを開けないように普段から気をつけましょう。 「時間」「光」「音」「目」による犯罪防止策  犯罪防止には4 つの原則といわれるものがあります。4原則のその1は「時間」で、泥棒は侵入に時間がかかると諦めます。その2は「光」で、泥棒は明るい環境を嫌がります。その3は「音」で、泥棒は大きな音が鳴ると逃げ出します。その4 は「目」で、泥棒は顔や姿を見られるのを嫌がります。これらの防止策は泥棒だけに限らず犯罪企図者に捕まるリスクを感じさせるものです。ある調査によると、泥棒が侵入をあきらめる時間は、2 分以内が約2 割、5 分以内が約7 割、10 分以内が約9 割という結果が出ていることを考えれば、泥棒に侵入をあきらめさせるには、侵入に時間をかけさせる対策を行うことが重要なポイントになります。昔からいわれています「ワンドア(窓)ツーロック」や、泥棒の侵入口となる出入口や窓の建物部品を強化することが有効な対策です。この建物部品は、国土交通省・経済産業省・警察庁と建物部品関係の民間団体との合同会議で定めた認定基準に適合する、防犯性能の高い扉・錠・ガラス・格子など、いわゆる「防犯建物部品(緑色のCPマーク)」を導入するのもいいでしょう。 支えあう安全なまちづくり   「光」については、照明の設置および適切な維持管理、そして要所要所のセンサーライトの設置など、「音」については、非常ベル、玉砂利、番犬などによる対策があります。最後のキーワードは「目」です。人の目のほか、機械の目・防犯カメラシステムがあります。これは犯罪企図者への威嚇、抑止効果だけでなく、犯人の特定・検挙に貢献するなど重要な役割を果たしてくれます。従って、有効な機器・システムを導入することが大切です。検挙されることによって更なる抑止効果が期待できるのです。もう一つ、お金のかからない有効な防犯、「互助防犯」活動の推進をお願いしたいと思います。これは隣近所の方と連帯感を高め協力して、犯罪企図者が接近しにくい環境をつくっていくということです。建物そのものをハード面で強化すれば安心とはいえ、守りには限界があります。それをカバーしてくれるのがご近所の力ではないかと思うのです。最高のセキュリティは機械ではなく、最も良好なコミュニティから生まれます。かつての日本が世界一安全といわれた時代は、「向こう三軒両隣」という互助のおつきあいがありましたが、これこそ、安全・安心を支える大きな要因だったように思われます。とにかく声を掛け合いましょう。そして、マンション入居者間だけでなく、地域とのつながりを深めるための環境・施設の整備や、お祭りなどのイベントを通して、地域に犯罪企図者を寄せ付けない環境をつくっていただきたいと願っています。 安全なまちであってこそ住まいの安全も確保できるのです。なお、私ども大阪府防犯設備士協会では防犯に関するあらゆるご相談に応じています。防犯についてわからないことがあれば、どんなことでも気軽にご相談ください。

<お問合せ>
大阪府防犯設備士協会 事務局
〒542-0081
大阪市中央区南船場2-6-24 KOC ビル4 階
TEL.06-6264-7188(平日 9:00〜17:00)
http://www.daibousetsu.com/

10月29日(土) 第1日目-3

講座 マンションの不動産価値を保つために
マンションの不動産価値を保つために 講師

マンションの資産価値維持には、
ハード面の対策とソフト力の
強化が不可欠です
(講師)
社団法人 大阪府不動産鑑定士協会
佐藤 さゆき(さとう さゆき)


●マンションの価値は、こう評価する  マンションの価値はどのように判断されるのでしょうか。本日は不動産鑑定評価の考え方に基づいて、マンションの資産価値を維持するためのヒントについてお話ししてみたいと思います。不動産鑑定評価では、不動産価格を、主に費用性、市場性、収益性の3 つの側面から考えていきます。こうした考え方は、それぞれ原価法、取引事例比較法、収益還元法と呼ばれています。原価法はコストに着目した方法で、マンションが完成するまでにかかったコスト(土地の価格+建物の価格)から現在までに発生した減価(破損、磨耗等の老朽化、給湯器等の設備の旧式化や不足等)を控除していきます。ということは、破損箇所や設備等をきちんと直すことによって減価を少なくするよう努力すれば、資産価値も上げられるわけです。
 取引事例比較法は市場性に着目した方法で、他のマンション等の取引事例に基づいて、その取引事例と対象マンションを比較し、どのくらいの価格で売れるかを判定していきます、つまり、競争力を比較するわけです。マンションの価格を決定する要因には、都心からの距離や駅との接近性、敷地内の緑の割合を示す緑被率、建物のグレード、設備機能、地域の知名度などがあり、特に中古マンションの場合は、築年数や管理状況の良し悪しも価格に大きく影響します。
 収益比較法は収益性に着目した考え方で、もしそのマンションを貸したら、いくらで貸せるかを試算し、収益(家賃)から不動産の価格を判定します。ですから、たとえば設備なども最新の高性能なものに更新していれば資産価値も上がり、家賃も高水準を維持できることになります。 ●進む、都心のマンションへの永住志向  マンションを取り巻く状況も大きく変わってきました。夫婦+子供2 人、専業主婦といったこれまでの家族構成は少数化し、特に女性はライフスタイルの多様化に伴い、学校卒業後も仕事を持つようになり、晩婚化、非婚化が進んでいます。その結果、単身者や子供を持たないカップル、高齢者のみの世帯など小規模世帯が増加し、利便性の高いマンションの需要が増えてきました。また、リタイアを迎えた団塊世代は以前の中高年と比べ、フットワーク軽く生活を楽しむ傾向にあります。これから高齢を迎える者にとって、多彩な趣味を楽しむために地下鉄やタクシーで気楽に移動できる都心のマンションは、魅力的な住居になっています。大阪市でも2006 年から2011 年の5 年間に北区の人口は約10% の増加、中央区は約17% の増加と、急激な人口増加が認められ、最近は都心でも分譲マンションの建設が盛んです。その背景には、不況で土地利用の転換が図られ、値段も比較的手頃という要因もありますが、人口増加は、若い世代はもとより高齢世代にとっても、趣味娯楽が楽しめ、医療サービスも受けやすい都心のマンションのメリットが支持されるなど、住宅需要が大きく変化した結果だといえそうです。
 かつては一戸建て住宅を所有することがステイタスと考えられていました。しかし1993 年頃を境に、マンションは一戸建てを手に入れるまでの借り住まいと考える人の割合は低下し、2008 年の国土交通省の調査では、約半数の人が今のマンションに永住するつもりと回答。マンションへの永住志向はどんどん進んでいます。 ●良い管理が実施されている管理組合の共通点  では、マンションの資産価値を維持するにはどうしていけばいいのか。そのためには、「良い管理」が一番のキーワードになります。皆さんのマンションの細部に人の目が行き届いていますか? 掃除は行き届いていますか? 共用部分の清掃がなされていることは日常管理の基本です。駐輪場の様子を見ると住民のマナーがよくわかるといわれています。モラルの低い住民を管理できないようでは資産価値の維持は難しいでしょう。また、築年数が10 年を超えると住戸を自宅使用から賃貸に切り替える区分所有者が増え、マンション管理もずさんになっていく傾向が見られます。一度そうなってしまうとマンションに残る区分所有者も自分たちの住まいを改善していこうという意欲が次第になくなっていきます。これが、管理を怠ったマンションが陥りやすい資産価値低下のスパイラルで、このスパイラルに入り込んでしまうと抜け出すのは至難です。これらとは逆に、良い管理が実践されている管理組合には共通点があります。そのポイントは、「和気あいあいとした明るい雰囲気」「年齢性別が多様で偏りがなく、女性が元気」「リーダー役の理事長などに人間的魅力があり、リーダーシップもある」「連絡や事務手続きがしっかり的確に行われてる」などですが、皆さんのマンションではいかがでしょうか。 ●資産価値を高める的確な大規模修繕  マンションの安全性も資産価値の判定に影響を与えます。都市型の犯罪が凶悪化する状況の中で、現代の都市要塞としてのマンションを選択する人が増えています。都心に立地するマンションの住民に圧倒的に関心の高い項目が防犯上の安全性です。資産価値を維持するという観点からは、防犯モデルマンションの審査項目をチェックしてみる、あるいは、その登録を受けるのもいいでしょう。防犯のためには、防犯カメラ、TV モニター付きインターホン、セキュリティシステムなどのハード面の対策も大切ですが、それだけではどうしても限界があります。同時にコミュニティというソフト力の強化も不可欠です。住民同士が互いに挨拶しあうことで、部外者の侵入に対する大きな抑止力になります。そのほか、定期的なイベントや敷地内の緑化、インターネットを利用した専用コミュニティサイトの活用など、それぞれのマンションに合ったコミュニティつくりを考えてみてはどうでしょう。適切な大規模修繕も資産価値の維持に欠かせません。大規模修繕の履歴はそれぞれのマンションにしっかりと残ります。中古マンションの売買に当たっては重要事項説明の説明事項になっており、中古マンション需要者はメンテナンスがきちんと行われているマンションであるかどうかを修繕履歴から判断することになります。さらに、東日本大震災を受けて、管理組合の意識も大きく変わり、積極的に耐震改修をしてそれをアピールする管理組合も出現しています。また、省エネ化マンションも多少価格が高くても売れることになるので、省エネ化改修も資産価値の維持に役立ちます。こうした判定評価のやり方を参考にされて、皆さんのマンションでも資産価値の維持向上に努めていただければ幸いです。

11月19日(日) 第2日目

講座 マンション設備の維持管理
マンション設備の維持管理 講師

快適なマンションライフには
給排水設備の適切な管理を
(講師)
社団法人 大阪府建築士会
今井 俊夫(いまい としお)


●給排水設備はライフラインのかなめ  全国で600 万戸といわれるマンションの約4 割に当たる250 万戸が築20 年を経過し、老朽化が進むマンションの維持管理が大きな問題になっています。いくら建物が丈夫でも、ライフラインである設備・配管が劣化すれば、そのマンションには住めなくなります。そこで、本日は快適なマンションライフの維持に重要な役割を担っている給排水設備についてお話ししたいと思います。
 給排水設備は共用部分と専有部分を連続したシステムで考える必要があります。専有部分には管理組合は関与しないという原則論だけでは給排水設備の維持管理はできません。むしろ積極的に専有部分の維持保全に関わっていく姿勢が望まれます。給排水設備は他の設備と違って、すべて配管でつながっています。水が出て、流れるのはスムーズにいって当たり前。私たちは普段あまり意識せずに使っていますが、建物と同様にこれらの設備も最近では大きく進化し、機能面でも耐久性、堅牢性でも昔とは比較できないほど優れた設備が出てきました。ところが、築20 年以上のマンションでは、配管などの設備も古い考え方でつくられた材料を使っていることが多く、今の考え方とは相当かけ離れた部材が使われているのが実状です。給排水設備が老朽化して問題が出るのは、まず専有部分からです。だから、管理組合は共用部分だけでなく専有部分にも関わっていく必要があるわけです。皆さんの住むマンションでも、どんな設備、どんな配管材料が使われており、どのくらいの耐用年数があるのかを把握しておきましょう。 ●主な給水配管と排水配管  よく使われている給水配管には、まず「水道用硬質塩化ビニルライニング鋼管(VLP)」があります。これは配管用炭素鋼管の内面に硬質塩化ビニル管を挿入したものですが、端部が錆びる場合があり、コア付き継ぎ手等を用いなければ耐用年数は25 年程度と考えてください。「耐衝撃性硬質塩化ビニル管(HIVP)」は鉄と違って錆びにくく、耐用年数は30 年以上ありますが、古くなると割れやすくなり漏水事故を起こすこともあります。最近普及し始めた「高密度ポリエチレン管(PE)」は衝撃に強く、ジョイントも高周波熱電着により行われ信頼性の高い管です。また、住戸内で使われる給水給湯配管には「架橋ポリエチレン管」や「ポリブデン管」があり、新築マンションの専有部分ではほとんどこのどちらかが使われています。 一方、排水配管にも様々なものがあります。「硬質塩化ビニル管(VP、VU)」は肉厚によりVP( 厚い)、VU( 薄い) の違いがあります。錆びないため長持ちしますが、古くなると熱や衝撃で割れやすくなるので注意が必要です。硬質塩化ビニル管の内管に繊維モルタルを被覆した「耐火二層管(TMP)」は耐久性、耐火性に優れた管です。「配管用炭素鋼管(SGP)」はいわゆる白ガス管で、排水に用いると錆びやすく、ネジ部分の肉厚の薄いところから穴が開き漏水することがあります。また、汚水管や屋外埋設管に用いられる「鋳鉄管」は耐用年数が30 年前後で、特に埋設管の場合は当初いわれていたよりも耐用年数は短いと考えられています。 ●給水と排水の方式   給水方式としては、1990 年以前に建設されたマンションでは、水槽に貯めた水をポンプで高置水槽へ揚げ、重力により給水する「高置水槽給水方式」が一般的でした。最近は、以下の2 方式が主流です。「ポンプ圧送方式」は受水槽に貯めた水を加圧ポンプを連続運転することにより直送して給水する方式で、高置水槽は不要です。「増圧給水方式」は、高架水槽、受水槽を利用せずに配水管内の水圧を利用しながら、さらに増圧ポンプで給水圧を高めて給水する方式で、安全性・省エネ性に優れています。また特殊な方式ですが、「増圧直結高架水槽方式」は受水槽を設けずに、増圧ポンプで高置水槽へ水を揚げ、重力により給水する方式もあります。その他「直結給水方式」は配水管内の水圧を利用して建物内の器具に直接給水する方式で、大阪市では一般に3階建てまでの規模の小さいマンションで使われています。
 古い給水設備から「増圧給水方式」への改修は自治体の許可が必要です。大阪市ではメータの口径が75mm まで導入可能で、15 階200戸程度の高層でも許可が下ります。(水量計算による確認が必要)改修費用はポンプ能力、配管方法、住戸数にもよりますが、400〜900 万円程度が目安で、工事も比較的容易です。
 マンションでの排水は、トイレだけ単独で集めて縦管で降ろし、それ以外の雑排水を一つの管で縦に降ろす「分流方式」が一般的ですが(ただし、1 階は単独配管)、その他に一回り太い配管にすべての水を合流させてストンと降ろす「集合管方式」もあり、高層マンションではこのシステムが多くなっています。 ●給排水設備の更新と更生  配管を新しいものに取り替えることを「更新」といい、配管の内部を掃除して耐食性のある材料でコーティング(ライニング)し延命させることを「更生」といいます。
 給水管は共用部分と専有部分の境界がはっきりしているため、工区分けが簡単にできます。給水管の改修は共用部分と専用部分をまとめて工事するのが一番ですが、それが無理なら、一般的には共用部分は更新、専有部分は更生でいく方法が妥当と思います。更新の場合、共用部分については、PS 内に新たな配管が通せるか、他にスペースはないかなどを確かめること、また専有部分については、室内内装の撤去復旧が可能か、コンクリートやモルタルに配管が埋め込まれていないかなどを検証しておくことが必要です。