セミナー情報

平成30年度「マンション管理の基礎知識」基礎セミナー報告

開催日時:平成30年7月1日(日)、7月15日(日)、7月22日(日)

7月1日(日)第1日目−1

講座1 標準管理規約の改正を受けて
標準管理規約の改正を受けて 講師

マンションの管理の基礎知識を身につけ、適正な管理や良好なコミュニティ形成に積極的に取組みましょう。〈講師〉
 (公財)マンション管理センター
 大阪支部長 長田 康夫(おさだ やすお)


国土交通省の発表では、2017年末時点の分譲マンションの居住人口は国民の約1割と推計され、(公財)マンション管理センタ-(東京・大阪)の相談窓口で2017年度に受け付けた8000〜8500件の約1/4が区分所有法及び管理規約に関する相談でした。

■ 「マンションの管理の適正化に関する指針」の重要性
●「民法」と「区分所有法」の共有の主な違い
①「共有物の使用」
(区分所有法)持分に関係なく共用部分全体を用方に従って使用できる。
②「共用部分の持分の処分」
(区分所有法)共用部分の持分だけを処分できず、専有部分と一緒に処分する。
③「共有物の変更」
(区分所有法)形状または効用の著しい変更を伴うものについては、区分所有者及び議決権の3/4以上の決議で変更できる。
マンションは共用部分を共同で所有・使用・管理するため、適正な管理の「道徳本」が必要です。

●「マンションの管理の適正化に関する指針」の位置付け
「昔の住まい」と「マンション」を比べてみると、村長が理事長、長老会が理事会、家長が組合員(区分所有者)にあたります。また、「昔の住まい」の「掟」とも言える厳しい決め事は、「マンション」では「区分所有法」と「管理規約」にあたりますが、「マンション」では共同生活に最も必要な道徳心が育ちませんでした。そのため、2001年にようやく共同生活に必要な道徳本として「マンションの管理の適正化に関する指針」が定められました。

●マンションの管理の適正化の基本的方向
・管理の主体は管理組合であり、マンションの区分所有者の意見が十分に反映されるよう、適正な運営を行うことが重要です。
・区分所有者等は、管理組合の一員としての役割を適切に果たすよう努める必要があります。
・管理組合は問題に応じて、専門的知識を有する者の支援を受けながら主体性をもって適切な対応を心がけることが必要です。

●マンションの管理の適正化の推進のために管理組合が留意すべき基本的事項
・管理組合の運営は、開かれた民主的なものとする必要があり、集会(総会)は管理組合の最高意思決定機関です。意思決定にあたっては適切な判断が行なえるよう配慮する必要があり、管理者等はマンション区分所有者等のため誠実にその職務を執行する必要があります。
・マンションにおけるコミュニティ形成については、自治会及び町内会等は、居住者が各自の判断で加入するものであることに留意し、管理費と自治会費の徴収・支出を分けて適切に運用することが必要です。

●マンションの管理の適正化の推進のためにマンションの区分所有者等が留意すべき基本的事項
マンションの購入検討者は、マンション管理の重要性を認識し、売買契約だけでなく、管理規約等管理に関する事項に十分留意する必要があります。また、マンションの区分所有者等は、相隣関係等に配慮を要する住まい方であることを認識し、定められた管理規約、集会の決議等を遵守する必要があります。

●マンションの管理の適正化の推進のための管理委託に関する基本的事項
管理の主体が管理組合自身であることを認識した上で、管理事務を委託する場合は、その内容を十分に検討し、書面をもって管理委託契約を締結することが重要です。


■管理規約とは
管理の原則は、多数による決議で実行することを決めることで、前もって決められる事項を文書にしたのが管理規約です。マンション管理の最高自治規範であり、必要に応じて改正を行なうことが重要です。違反行為があった場合、管理者等は必要な勧告・指導等を行うとともに、法令等により是正又は排除を求める措置をとることが重要です。

●管理規約の基本的事項
・管理規約で定めることができるのは、管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項です。
・中古で購入した者や賃借人も、守らなければなりません。
・専有部分の用途について、区分所有者はその用途を定めることができます。
・専有部分を住宅宿泊事業(民泊)に使用してはならないと記載することもできます。
・専有部分を第3者に貸与する場合、暴力団員の排除に関することを定めることができます。

●管理規約の改正について
・管理規約を改正する場合は、区分所有者総数及び議決権総数の各3/4以上の特別決議が必要です。その場合、区分所有者間の利害の衡平性が図られた規約とする必要があります。また、法律や標準管理規約が改正された時などに、自身のマンションの管理規約も改正すべきかどうかを考えることは大切です。

● 管理規約についてのQ&A
Q管理規約の位置づけは?
A法令の規定を守って決めた規約は、当該マンションでは法律と同等です。

Q区分所有法と管理規約はどちらが優先?
A区分所有法です。内容を変えて規定できるのは区分所有法の条文に「規約により…することができる」等と書かれている場合だけです。

Q管理規約と使用細則等の違いは?
A使用細則は規約に書かれていることを補助する目的です。権利や義務は基本的事項として管理規約に、詳細な手続きについては使用細則に記載します。使用細則は普通決議で変更でき、柔軟な対応が可能になります。

Q賃借人が使用細則を守らない場合の対処方法は?
A当該賃借人に口頭や文書で管理規約や使用細則を守る義務を説明し、違反行為をやめるよう勧告します。是正されない場合は、標準管理規約(単棟型)第19条第1項(専有部分の貸与)と第2項において、賃貸人から注意を促してやめさせることになります。それ以上の場合は、区分所有法第60条1項(占有者に対する引渡し請求)の規定で、管理組合が賃貸借契約の解除権を行使できます。

Q管理費の値上げは特別決議?
A管理規約は文言を1字でも変えれば、特別決議が必要です。記載してある場所が管理規約本文でなく別表欄であっても同じ扱いです。

Q管理規約を改正する場合、承諾が必要となる特別な影響を受ける区分所有者とは?
A特別な影響と判断する基準は、「受忍限度」を超えるか否かですが、事例ごとに状況が異なるので管理組合内での十分な検討が必要です。

7月1日(日)第1日目−2

講座2 管理組合の会計監査
管理組合の会計監査 講師

快適なマンション管理のため、わかりやすく、透明性のある会計処理を目指しましょう。〈講師〉
 近畿税理士会
 鈴木 義教(すずき よしのり)


■管理組合会計の目的
 管理組合の決算書が満たすべき条件は、次の2点です。
①組合員に対して会計上の説明責任を果たすこと。
②利害関係者の意思決定に資するために、会計情報を提供すること。
【利害関係者】組合員、金融機関や修繕工事の発注先等の取引先、税務署など。

■管理規約と会計
 会計では、公正妥当な処理の仕方が複数認められており、その選択も自由にできることから、唯一の答えはありません。原則的ルールとして標準管理規約等において求められる決算書類を作成しますが、法的に決まった様式がないため、自主管理している管理組合以外は委託している管理会社のルールや、仕様に沿って決算書が作成されるのが現状です。

■会計原則と管理組合会計
 会計の一般原則
①「真実性の原則」…嘘をつかずに提示する原則。
②「重要性の原則」…金額的に重要性の乏しい項目について、簡易な処理を認める原則。
③「正規の簿記の原則」…日々発生している取引を網羅的に時系列で追って処理し、それに基づいて収支計算書や貸借対照表を作る。
④「継続性の原則」…年度によって処理方法を変更せず、期間の比較ができるよう継続的な基準を採用する。
⑤「明瞭性の原則」…誰が見ても分かる決算書を作成する。
⑥「保守主義の原則」…長期滞納管理費があった場合など、回収の努力を怠らないのは当然のこととして、会計においては、資産性が疑わしいものはなるべく早めに安全な処理(雑損失等)を行う。
 企業会計には固定資産計上や減価償却がありますが、マンションの建物や建物付属設備は、管理組合が所有するなど、直接使用するものではないため、こうした考えは当たりません。
 マンション管理組合特有の原則
①「区分経理の原則」…日常の維持管理に関する管理費会計や、大規模修繕工事をはじめとする建物等の修繕に関する会計のように目的別に区分すること。
区分した会計ごとに通帳を分ける方が、管理財産が分かりやすくおすすめです。
②「予算準拠の原則」…予算の範囲内でしか支出の執行権限は与えられません。よって、予算はことのほか重要です。
 範囲を超えた場合は予備費で対応しますが、その額が大幅な場合は、臨時総会を開くなどの手続きが必要になります。
 予算の進捗状況は、年度が始まって6〜9カ月経過時に確認することが大切です。

■財務諸表の種類
 財務諸表は、企業や行政、公益法人などでは様式が決まっていますが、管理組合会計には普及した統一的な基準がありません。そのため公正妥当の判断基準が何か、分かりにくいという問題点があげられています。現在は公益会計基準など、利益追求しない団体の会計基準を流用して参考にしているのが一般的です。
●収支計算書
 一定期間の収支差額を計算するもので、書類の最初に会計期間を書き込む部分を作っておきましょう。
 「明瞭性の原則」に従って、縦軸の勘定科目を日常的な費用(経常収支)とそうでないもの(経常外収支)に分け、横軸を予算額(A)、決算額(B)、差異(A−B)とし、「予算準拠の原則」に基づき予算額との差異を明示します。
 補足として主な科目の計算明細書(特に機械式駐車場のように将来において大規模な補修を必要とする設備では、日常の補修に必要な管理費と将来の補修に備えた修繕積立金に分けた計算明細)を備えることは、管理運営上よいと思われます。

●貸借対照表
 ある時点での資産・負債の状態を示すもの。収支計算書と貸借対照表は相互に関連して一体のものなので、「正規の簿記の原則」に基づき同時に作成します。発生主義に基づき縦軸に勘定科目である資産と負債をもれなく記載しましょう。横軸は前年からの増減を示すため当年度(A)、前年度(B)、増減(A−B)として管理します。財産目録の作成も要します。

●収支予算書(案)
 予算案は、年度が始まった9カ月後から決算を迎えるまでの間に作成しましょう。前期予算額及び決算額との増減比較をすることが目的で、事業計画案に沿ったものである必要があります。長期修繕計画など、一度に大きなお金が動く場合は、内容との整合性をとりながら、想定される規模と金額に見合うよう事前にチェックしながら進めることが重要です。
 委託した管理会社によっては、膨大な量の書類になることもありますが、収支計算書と貸借対照表、収支予算書(案)を確認して、マンションの状況を把握しましょう。

■監事と会計監査
 会計監査は「人は間違える生き物である」を前提として、当たり前のことをチェックすることです。会計書類は決算月だけでなく、なるべく頻繁に確認し、全体像を把握しましょう。貸借対照表の連続性(前期の決算書の繰越額と新年度の期首の額)を確認することは、不正防止の意味から重要です。付属明細書や証憑書類の確認も行ってください。また役員は必ず残高証明書の原本を確認してください。さらに前期と当期の数字に大きな変動があった場合などは、その理由と原因を把握することが重要です。前期実績と当期実績の比較で、推移と傾向を把握し、当期予算と当期実績の比較で「予算準拠の原則」に基づいて、当期予算の妥当性を検討します。操作しやすい雑費は、その内容を確認することが注意点になります。

■収益事業と税金
 駐車場の外部貸しや、最近では携帯電話会社の基地局貸しなどが、収益事業として目立っています。いずれも税務申告が必要になりますので、これまで通りサービスを継続する管理組合は正しく申告を行ってください。検討している場合は収益だけでなく、税金を払うことも考慮した上で取り組みましょう。

■管理組合会計の課題
 管理組合会計では、実務上普及している標準的な基準がないことが課題です。監事は専門的な知識を問われることも多く、多額の収入のある大規模マンションなどは、外部監査の導入や、会計の専門家のチェックを受けることもおすすめです。また、管理組合が委託した管理会社が会計業務を正しく執行し管理していることを確認するため、定期的にチェックの機会を設けることは重要だと考えます。

7月15日(日)第2日目−1

講座3 居住者の高齢化に伴う管理組合の新たな課題について
居住者の高齢化に伴う管理組合の新たな課題について 講師

マンションにおける認知症高齢者の課題については、継続的な見守りや専門機関との連携が必要です。
〈講師〉
 (一社)マンション管理業協会会員
 大和ライフネクスト株式会社
 久保 依子 (くぼ よりこ)


■全国の認知症高齢者の現状
 全国の65歳以上の高齢者の内、認知症の方は15%(人数は約462万人)。正常と認知症の中間の状態にある軽度認知障害(MCI)の方が13%(人数は約400万人)です。平成24年のマンションストック数(590万戸)から単純計算した場合、一世帯当たりの平均居住数を2.5人とすると、全国の65歳以上の高齢者で認知症の方は60戸のマンションでは5.6人。100戸のマンションでは9人になります。65歳以上の高齢者人口は2025年にピークに達しますが、それ以降も75歳以上の後期高齢者及び認知症高齢者の方は増え続けます。
(出典:平成24年・厚生労働省資料)・(出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(全国集計)平成24(2012)年1月推計」・内閣府「平成28年版高齢社会白書」より引用)

■居住者の高齢化に伴うマンションの現状調査
 ●(一社)マンション管理業協会による実態調査
 同協会の会員社に対し、平成27年から平成28年にかけて、2回アンケート調査を実施しました。
〈1回目の調査〉
会員社(372社)の本社管理部門に対し、「居住者の高齢化による問題発生の割合」を感覚値で回答してもらったところ、70%以上の会員社が問題はほとんど発生していないと回答しました。問題が発生していると回答した会員社に「問題の内容」を尋ねたところ、役員のなり手不足や空き駐車場などの維持管理にかかわる問題が多く、介護・福祉に関するものは少ない結果でした。
〈2回目の調査〉
現場部門を対象として、認知症の問題が発生している場合の内容と、対応状況を自由に回答する方法で実施したところ、次のような事例報告がありました。
ケース1:ガスコンロに電気炊飯器を載せて、火をつけてしまい小火を発生させた。
釜でご飯を炊いていた時の習慣で体が自然に動いてしまった事例。
ケース2:部屋内にごみを散乱させ、異臭や害虫が発生して、近隣住戸に迷惑をかける。
大切なものを捨ててしまったという妄想に駆られ、探すためにごみ収集場からごみを持ち帰ってしまう事例。
ケース3:隣の住人が天井の隙間から部屋に入ってくるなど、管理員になんども苦情を申し立てる。精神面の不安定さなどから妄想を拭えない事例。

●マンションにおける認知症高齢者の問題とは?
 『ごみ屋敷化』や『いわゆる徘徊』など認知症に付随した症状や行動は、他の居住者の生活に影響を及ぼすまでわからないのが現状です。また、認知症に伴う周辺の症状に、不安や抑うつ、妄想や幻覚、反復行動、徘徊、粗暴行為といったものがあり、段階的に進むとされています。(出典:認知症の原因疾患による症状行動の特徴とケアの方針(2009年))

●問題解決に向けた対応の現状
 認知症高齢者の問題は、発生してもなかなか解決に至りません。その理由は、認知症の方自身の判断能力が失われており、問題となる行動が生じても対処が困難なこと、さらに親族に連絡する場合でも、連絡先不明や対応拒否など協力を得られないことがあります。問題となる行動の対応に長時間を要し、管理業務に支障を来し、管理組合や近隣居住者の方から管理員などがお叱りを受けることもあります。認知症は自然に回復する見込みが少ないため、マンション管理組合側も従来とは異なる仕組みが必要です。問題となる行動が顕在化する前段階は「継続的な見守り」、顕在化後は地域包括支援センタ-など「専門機関との連携」を行なうことが、求められています。
■連携について
 (一社)マンション管理業協会も管理組合と専門家、行政との意見交換会を始めました。立場や考え方の違いから、行政とは意見が対立する場面も少なからずありましたが、東京都の「高齢者等を支える地域づくり協定」など民間と連携した事例も出てきています。また専門家から、マンション管理業界は(どのように対処すべきかの方法論)が少ないとのご指摘も頂戴し、こうした意見交換で、以下の課題も明らかになりました。

●管理組合における認知症の方の対応に関する課題
 管理組合役員が認知症の見守りなどに関わることで、リスクが増える懸念があります。
 児童がボランティア父兄の引率を受けて活動中に事故に遇い、ボランティア父兄がその責任を問われた判例もあります。管理組合活動に関する損害保険も、現状の建物などのハード中心の商品から、社会的課題を踏まえた商品に変える検討が必要ではないかと思います。

■マンションで働く「人」の高齢化問題
 マンション管理業は、認知症の方への対応で医療機関などから活動を期待されていますが、深刻な人手不足の状況にあります。
 (一社)マンション管理業協会のアンケート調査では、主に関西に多く見られる住み込み管理員の状況について、「大いに不足」または「やや不足」の割合が高くなっていることが明確になりました。また、管理員採用が厳しくなっている理由として、60歳定年引き上げや、給与や時給単価の低さもあげられています。管理員は清掃業務も行うため、業務内容に抵抗を感じている人も多く見受けられます。
 その為、管理員の新規採用が困難な状況で、マンション管理業界では、管理員の老いが課題になっています。

●マンション管理員は外国人を雇用できない
 外国人労働力を活用することも問題解決の一つですが、就労目的で在留が認められる資格(職種)にマンション管理員は該当しないため、管理員としての雇用が出来ません。一番近い解決策として、※IoTを活用した機械の導入が考えられます。しかし、認知症の方への対応などは機械化できるものでなく、人(管理員)に頼らざるを得ません。

 ※IoT
 モノのインターネット(物のインターネット、英語: Internet of Things)とは、様々な「モノ(物)」がインタ-ネットに接続され(単に繋がるだけではなく、モノがインターネットのように繋がる)、情報交換することにより相互に制御する仕組み。
(ウィキペディアより引用)


■将来の合意形成に向けて
 旧耐震基準よりも新耐震基準のマンションの将来像の質問をよく受けます。選択肢は「建替え」か「敷地売却」、そのまま住み続ける「延命」のいずれかです。
 しかし、「区分所有法」や「マンション建替え等の円滑化に関する法律」などの法制度の下では、「建替え」・「敷地売却」のハードルが高いと思われます。
 従って、認知症になっても永く住み続けるために、管理組合は管理会社、(一社)マンション管理業協会、行政、専門家などと一緒に今からできることを考えていきましょう。

7月15日(日)第2日目−2

パネルディスカッション 管理会社との上手な付き合い方
管理会社との上手な付き合い方 講師

管理会社を上手に活用し、適正なマンション管理に努めましょう。〈コーディネーター〉
 大阪司法書士会
 沖 健補(おき けんすけ)

〈パネリスト〉
 大阪弁護士会
 郷原 さや香(ごうはら さやか)

〈パネリスト〉
 (公社)大阪府建築士会
 桑原 宏明(くわはら ひろあき)

〈パネリスト〉
 (一社)マンション管理業協会会員
 大和ライフネクスト株式会社
 久保 依子(くぼ よりこ)

〈パネリスト〉
 大阪市立住まい情報センター
 マンション管理相談員
 宇都宮 忠(うつのみや ただし)


大阪市立住まい情報センターは年間約7000件の住まいに関するご相談を受けており、そのうち約1割がマンション関連です。「分譲マンション相談」の事例に基づいて、専門家にお話しを伺いました。

■沖   マンション生活において、減災で重要なことは何でしょうか?
■久 保 大阪北部地震で倒壊したマンションはなかったと聞いていますが、大和ライフネクスト社の大阪コールセンターは、「安否確認」のお問合せでパンク状態でした。管理員が出勤前の早朝でしたので、「状況はわかりません」としか回答できませんでした。発災時の「安否確認」では、近隣関係が大切です。
2年以上経過した熊本地震では、敷地売却を終えた管理組合から、話がまとまらない管理組合までさまざまです。発災時から復興・復旧までどの時点でも、コミュニティが重要です。
■沖   管理会社との関係では、どのような相談がありますか?
■宇都宮 管理組合の役員さんからの相談が多く、管理委託契約書をよく読んでいないことによる誤解も、トラブルの原因です。委託業務内容の認識を管理会社と一致させるため、不明なことは管理会社にしっかり説明を求めてください。
■沖   旅行で不在の専有部分から小火が起こり、原因究明に苦労した管理組合役員さんからの委託業務に関する相談です。ひとり暮らし世帯が増えるなか、救急救命も考えれば、管理会社で専有部分の鍵を預かり、管理することは可能ですか?
■久 保 管理会社や管理員は、専有部分の鍵をお預かりしません。駆けつけサ-ビスは、警備業の仕事になります。
■宇都宮 どの住宅にどのような人が住んでいるのかを記した「区分所有者名簿」と「入居者名簿」は、管理組合活動で大切です。
■沖   「名簿」作成のために、管理組合はどうすればよいのですか?
■郷 原 標準管理委託契約書の「理事会支援業務」に、組合員等の「名簿」を整備するとあり、「名簿」は作成しなければならないものです。一方で、管理組合は個人情報保護法の対象者として、次の事項を遵守しなければなりません。
①利用目的をしっかり定める。②利用目的を遵守する。③情報として必要な範囲(勤務先名、同居家族の名前など)を明確にする。④情報漏洩を防ぐ。⑤第3者への情報提供には、本人の同意取り付けを徹底する。⑥定期的な更新をする。⑦情報管理の方法を明確にする。
情報提供を拒む人には、利用目的をきっちりと説明し、協力を呼びかけることが重要です。
■沖   管理組合主導の組合運営をしたいという相談が多いと聞きますが、どのようなことですか?
■宇都宮 相談の多くは管理会社が何もしてくれない…というものです。管理組合が、「管理会社を上手に活用する」ことを意識して、委託した業務内容を理解すれば、自ずと組合主導の運営になります。
■沖   大規模修繕工事では、どのようなことがありますか?
■桑 原 バルコニーやポーチの物置などが撤去されないと、工事が滞ってしまいます。管理組合に相談しますが、撤去の依頼通知を管理会社に任せしてしまうことが多く、管理会社からすれば契約外業務のため、撤去が徹底されません。居住者も管理組合と管理会社のどちらから注意されているのか区別がつかず、撤去の必要性も理解できていないと感じます。
■沖   管理組合と管理会社のトラブルを防止する観点から「マンション標準管理委託契約書」で、理事会及び総会支援業務が明確にされました。管理会社としてどう感じられますか?
■久 保 管理会社を「上手に活用ください」に尽きます。
一方で、「理事長解任動議の臨時総会」を開催したい組合員と、したくない組合員との板挟みなど、居住者間で解決いただくべき問題で、管理会社に対し苦情を言われることもあります。トラブルの根本原因を整理して、管理会社を「上手に活用」頂ければと思います。
■沖   相談件数の多くは、大規模修繕工事の進め方や長期修繕計画、修繕積立金、管理費の関連です。
なかには、駐車場使用料の会計処理の相談もあるようです。
■宇都宮 近年多いのは、空きが出てきて駐車場収入が減り、管理費が足らなくなる相談です。できれば、駐車場収入を管理費から除き、管理会社の協力を得て、収入と支出のバランスを検証した後に、値上げや撤去など管理費全体の解決策を考えていただければと思います。
■桑 原 駐車場の修理に際し、資金不足になっていることがあります。原因は、駐車場収入全額を管理費で会計処理し、積立てられていないことや、使用料が安すぎることです。保守点検費(管理費)と修繕積立金に分けて管理したり、使用料金を見直すことで解決できます。
大規模修繕工事で、駐車場の取扱いが問題になることがあります。大阪市には「附置義務」に関する条例があり、需要がないから壊せばよいとはなりません。特にタワー式や機械式駐車場はご注意ください。別途依頼の業務になるとしても、管理会社に依頼して、収支をはっきりさせたうえで、管理組合が取扱いを判断すべきです。
■久 保 管理会社では、機械式駐車場の埋め戻し工事や、外部貸しを行った場合の課税シミュレ-ションができます。具体的にご相談いただければ、管理会社のノウハウを上手に利用いただけると思います。
■沖   役員のなり手不足対策に、標準管理規約の改正で外部専門家を役員として選任する場合が追加されました。そんななか、不在区分所有者が理事長に就き、理事会にはその息子さんが代理出席し、総会議事録は不在区分所有者が理事長として署名押印している。これを黙認している管理会社の責任の有無や、総会の承認事項は有効か?という相談がありました。
■郷 原 標準管理規約に、組合員は区分所有者に限定され、理事もその中から選ばなくてはいけないとあり、登記簿上の所有者以外の人の理事会参加は、許されません。ただ、多忙や高齢を理由に、代理出席を求める声もあります。「代理人を配偶者、もしくは一親等内の親族に限り、且つ事故などで代わりを要する場合のみ認める」とした最高裁判例もあります。まずは、代理出席を認めると管理規約を変更することが必要です。
また、外部専門家を理事に入れる場合も、管理規約の変更は必要です。
■沖   マンションに関わる裁判は増加していますが、ケースバイケースで判決が異なっています。ある不動産鑑定士が、「マンションは管理が重要」と話していました。ハード面もソフト面も管理が行き届いているマンションは、市場価値が高いそうです。皆さんが管理規約を変更したり、「名簿」を整備してトラブルを防ぐことは大切で、専門的スキルを持った管理会社のアドバイスを上手に活用いただければと思います。

7月22日(日)第3日目−1

講座4 設計コンサルタントや施工業者の選び方
設計コンサルタントや施工業者の選び方 講師

コンサルタント選定の主体は管理組合。
しっかりとした判断が大切です。
〈講師〉
 (公社)大阪府建築士会
 津村 泰夫(つむら やすお)


日本のマンションは、アパートや共同住宅、集合住宅、長屋住宅、テラスハウス、コートハウスと呼ばれ、賃貸、分譲、コ-ポラティブハウスなど住まい方もさまざまです。修繕とは、それらの建物や設備の傷んだ部分を元の状態に戻すことを言い、その時々の修繕と一定の時期に行う計画修繕があります。

■大規模修繕工事の必要性
 大規模修繕工事は、修繕積立金を取り崩して行う計画的な修繕を言い、通常は10年以上の周期で実施されます。長く快適に住み続けるために新築時と同じレベルに近づけることを目的に、コンクリートや外壁の塗り替え、屋上などの防水改修、鉄部の塗装他、配管の取り替えなど適切な補修工事を行います。

■パートナーとなるコンサルタントの選定
 大規模修繕工事は、マンションの現状を把握(劣化診断調査)し、工事の必要性を考慮して工事計画を検討(修繕設計)します。その際に重要なのが、パートナーとなるコンサルタントの選定で、重要なことは、コンサルタント費用は参考に留め、大規模修繕工事全体の費用に着目することです。難しいですが、マンション居住者の立場で考えてくれているかを話し合いのなかで見極めることです。

●劣化診断調査とは…初回調査で、建築の専門家に、給排水や電気の専門家も加わり、屋上から地下まで全般にわたって修繕すべき項目を調査します。続いて、管理組合の協力の下、修繕経歴の調査・ヒアリングを行い記録を整理します。全住戸にはアンケート用紙を配布して、身の回りの建物の状況をご自身でチェックしていただきます。その結果は階層ごとに集計して可視化し、劣化診断の中間報告として管理組合に説明したり、専門家の立ち入り調査を行う住戸選定の参考とします。
 建物の劣化状態を項目ごとに表示し、劣化診断発表会を開催して修繕の緊急度やそれぞれの概算修繕費などを居住者全員に説明します。

●修繕設計とは…修繕委員と一緒に、劣化診断で明らかになった損傷部分の修繕と改善改良を検討します。積立金予算と修繕の緊急度を照らし合わせ、修繕仕様を決定し、改善・改良箇所を抽出します。修繕設計書は①見積要綱書②設計見積書③修繕仕様書④設計図面が含まれます。

●工事監理とは…管理組合員に代わり、現場で設計図面通りに施工されているかを確認します。監理者は各工程で検査を行い、確認後に次の工程に進むことを許可します。また工事中は定期的に打ち合わせ会議を開き、進捗や問題点を協議します。

●工事会社の選定…管理組合総会で設計内容を公表し、どのような工事を行うのかについて組合員に理解を深めてもらったうえで、募集要項などを作成して広く公募するのが原則です。
 見積参加業者に現場説明を行った後、見積書の提出を受け、業者ヒアリングを行います。金額にとらわれず総合的に判断して理事会で内定し、臨時総会で内定理由を明確に説明して決定します。

■コンサルタント選定に関して
 工事会社を選ぶ際には、①募集要項の決定②現場説明要項、見積りの方法③設計図面、仕様書、設計見積書と枠組みが決まっていますが、コンサルタント選びには、劣化診断や住戸立ち入り調査をどの程度実施するのかなど統一されたものがないばかりか、管理会社や施工会社、建築設計事務所、一般社団法人やNPO法人など業態もさまざまです。管理会社がコンサルタントを募集する場合、形だけの公募で設計事務所と施工会社が決められていることが多いようです。また工事会社をコンサルタントに選定した場合は、工事監理と(※1)工事管理が同じで第三者によるチェック機能がありません。建築設計事務所や一般社団法人、NPO法人などの団体は、個人事務所から全国展開しているところまで規模がさまざまで、法人組織の中には、加盟業者の利益になる仕組みを作っている場合もあります。
※1 工事管理
主な仕事は
○工程管理(工程計画や施工順序の検討、大工などの職人の手配)
○材料管理(使用材料の発注や管理)
○安全管理(作業員と周辺住民等への安全確保)
○原価管理(請負金額内での材料費、人件費等の金銭管理)
 立場は『工事現場を動かす責任者』です。

●コンサルタント選定に当たっての留意点
①コンサルタントの選定は、管理組合が行う。
②劣化診断で修繕経歴調査を行わなかったり、アンケート調査では単に集計だけを行っているコンサルタントがある。
③修繕設計で組合員の意見や要望を聞かず、一方的に補修方法を決める。或は、「工事会社の提案に任せる」と言い切るコンサルタントがある。
・無駄な過剰工事の疑いがあり要注意です。
④設計見積書に、市販の積算資料に記載がない細かな見積項目を記載するコンサルタントがある。
・設計者は、工事内容を想定して市販の積算資料などを基に作成しますので、市販の積算資料に記載がない項目を記載することはあまり考えられません。そのため、落札した工事業者の見積書と極めて一致している場合は、工事業者に見積もりをさせていることが疑われます。
⑤工事監理者が検査を十分にしてくれない。

■管理会社による大規模修繕
 管理組合は何もしなくても、管理会社が全て行ってくれますので、長期修繕計画で立てられた予定通りに工事は進みます。工事箇所の見なおしを必要としない管理組合であれば、選択肢の一つですが、(※2)設計監理方式は、管理会社が設計・監理者を事前に手配していたり、特定の業者が選定されやすいように公募条件を設定することもありますので注意してください。

※2 設計監理方式
設計事務所が建築のプロとして、建物調査から改修設計~施工業者選定~工事監理まで、技術的な資料を作成、提供し、それを基に管理組合が意志決定をするという方式です。

■不適切なコンサルタント問題
 業者からのバックマージン、談合、過剰工事、不明瞭な工事発注、経営不振な設計事務所を買い取っての再開業といった不適切なコンサルタント問題は、マンション管理新聞や(一社)マンションリフォーム技術協会会報誌、週刊誌、新聞、国土交通省なども取り上げています。

■コンサルタントの選定基準
 契約したコンサルタントがおかしいと感じたり、工事会社が高額な工事ばかりを提案してきたら、管理組合は勇気を持って「契約解除」を検討すべきです。
 コンサルタントの公募では、「当該マンションから概ね1時間半以内の場所に主たる事務所があること」や、「工事会社や管理会社、メーカーから独立してコンサルタント業務が出来る」などの条件を指定することも方法です。建築士会または建築家協会会員で、建築士会の継続能力開発(CPD)制度に登録し実績を記録していることも選定基準の一つになると思います。実際に候補のコンサルタントの事務所を訪問して、事務所の様子や雰囲気を見るだけでも判断できます。良いコンサルタントは、大規模修繕工事が終わっても管理組合から顧問を要請される場合があります。今まで関わってきたマンションの顧問に就いているかも判断基準の一つです。

7月22日(日)第3日目−2

管理組合交流サロン
 講師

大阪市立住まい情報センター3階ホール


マンション管理組合の方同士が、自由に意見を交換する場として交流サロンを開催し、今回は33名が5つのグループに分かれ参加しました。専門家の進行で自己紹介が始まり、その後、グル-プごとに管理規約や管理会社との付き合い方、大規模修繕工事など、それぞれの管理組合で課題になっている問題について、意見が交わされました。

参加者の皆さんは、日頃からマンション管理に関心が高く、管理組合の理事長、専門委員や役職を経験された方が多くいらっしゃいました。

そのため、抱えている課題についてもお互いに共感できることが多く、時に専門家の意見も聞きながら、交流会は約1時間にわたって大いに盛り上がりました。

最後に、各グループで話し合われた意見が紹介され、参加者全員で情報を共有しました。参加者の皆さんにとって、有意義な交流の時間になったのではないでしょうか。



【参加者の声】
滞納管理費の回収方法や、早期に解消する手だてが聞けてよかった。

大規模修繕工事のコンサルタントや工事業社選びについての、経験談が参考になった。

管理費の値上げのタイミングや方法が、具体的に聞けた。

管理会社を変更した際の経験談から、住民意識を高めることが先決とわかってよかった。

住民の防災意識を高める取組みの具体的な活動アイデアが得られた。

輪番制の管理組合理事長をサポ-トする委員会の設置など、負担感を減らす取組みが参考になった。

問題の先送りを防ぐため、役員任期を延長した話しなど、参考になる話しが聞けた。