個人情報保護法と管理組合

1.はじめに
 個人情報の保護に関する法律(以下「保護法」といいます)が平成17年4月1日から民間適用されるようになりました。これに合わせて各企業や団体が個人情報保護の体制を整備し、内規や対外契約を改定しています。それでは、マンションの管理組合はどのような影響を受けるのでしょうか。保護法の適用を受けるか否かを最初に検討し、その後適用如何に関わらず必要となる配慮について記載します。

2.前提となる個人情報とは?
 まず、前提事項を確認します。個人情報とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができる情報のことです(保護法2条を参考にした定義)。生存者に関する情報ですから原則として死者に関する情報は含まれませんが遺族という生存する個人に関する情報として取り扱われる場合はあります。また、特定の個人を識別することのできる情報に限られます。
 次に、個人情報と混同を生じやすいプライバシー情報との関係を見てみましょう。プライバシー情報とは、当該個人の私生活等に関する情報であって、その時点で公知のものではなく、一般人ならば外部公表を望まない情報です。すなわち、世間に知れ渡っていないし知られたくない私的な情報といえます。こうしたプライバシー情報が個人情報にも該当することは多々あると思いますが、両者の概念は異なります。すなわち、個人情報の場合、個人が特定される情報であれば良いので私生活等に関する情報に限られません。また、既に公知の情報も含まれます。加えて、世間に知られたくないような情報でなくても個人情報には含まれるのです。例えば、Aさんがマンション管理組合の役員をしていたとします。この事実は私生活に関するものか微妙ですし、外部にも公表している事実であり、知られないものではありません。そのため、プライバシー情報になることはありませんが、個人情報には該当するのです。
 保護法は、ここまで見て参りました個人情報の取り扱いについて規定しているのです。

3.マンション管理組合に適用されるのか
 保護法が適用されることになりますと、個人情報の管理体制の構築などの負担が生じます。そのため、僅かでも個人情報を保有しているもの全てを適用対象とする訳には参りません。一定数の個人情報を取り扱うものだけを個人情報取扱事業者として保護法の適用対象としています。
 その適用対象要件は、過去6ヶ月間継続して5000人以下の個人データ(名簿、データベース等に整理されて検索可能な状態となっている個人情報)しか保有していないものを除いた民間事業者となります。一般の企業の場合、社員情報自体もカウントされますし、各社員の保有する個人データもカウントされますので、ほとんどの企業が含まれます。また、規模の小さな企業であっても長年営業していますと情報が集積しますので、5000という数字を割り込むことは稀だと思います。
 それでは、マンション管理組合の場合はどうでしょうか。管理組合は、マンションに住む個人の情報を管理する程度であり、それ以外の個人情報を取り扱う性質のものではありません。企業のように営業・販売といった行為をしないのですから取り扱う個人情報が外部に拡大することは通常ありません。そうしますと戸数の多い大型マンションであっても5000人を超えることは原則として考えられません(300戸のマンションに1戸当たり3名がお住まいとしても900人に過ぎません。)。
 よって、マンション管理組合は、特殊なケース(本当に稀だとは思いますが、5000人を超える場合には保護法の規定を遵守して下さい)を別にして保護法の適用対象となる個人情報取扱事業者には該当しません。そのため、保護法そのものが適用されることはないという結論になります。

4.適用を受けないとしても配慮は必要
 さて、マンション管理組合に保護法そのものの適用がないとすれば、個人情報を乱雑に取り扱って良いのでしょうか。このような考え方は間違いだと思います。
 保護法が成立した背景としては、高度情報化社会の中で個人情報が高い価値を持つようになった一方、個人情報が知らないところで取得されたり予想を超えた範囲で利用されたりすることにより被害が生じるようになったので、利用と保護の調和の必要性が生じたからです。こうした個人情報の重要性は社会的コンセンサスを得ており、だからこそ個人情報の大量流出事故が新聞紙面を賑わしているのです。
 そして、保護法が適用対象を5000人という基準で区切ったのは、適用対象となれば保護のための負担が生じますので、ほんの僅かな個人情報しか取り扱っていない事業者にとっては過度の負担となるからに過ぎません。そうしますと、適用対象とならない場合でも、個人情報保護という昨今の流れに鑑み、個人情報の取扱を慎重にするのは当然のこととなります。
 特に、マンション管理組合の場合、管理対象とするのは同じマンション住民の個人情報なのですから、お互いが気持ち良く過ごせるように個人情報の管理には十分配慮すべきです。
 また、個人情報とプライバシー情報とは異なる旨を説明しましたが、プライバシー保護の要請も社会的コンセンサスを得ています。マンションの住民の私的な情報が集まりやすいという管理組合の性質を考えますと、このプライバシー保護の視点も極めて重要となります。いずれにしても住民に関する情報を扱う際に配慮すべき要請は高まっていることを再確認すべきでしょう。

5.実際の運用
 情報管理を慎重に行うという場合、個人情報の具体的管理はどのようにすれば良いのでしょうか。保護法自体が適用される訳ではありませんので、明確なルールはありません。そこで、具体的なルールは各管理組合が定めれば良いことになります。
 例えば、個人情報について、重要性の高いものとそうでないものとを区分し、前者については管理を徹底させ、紙媒体にする場合にはみだりに外部に持ち出さず、管理する場合は施錠したロッカー等に入れておくこととします。また、パソコンで管理する場合には容易に外部アクセスできる状態にせず、ダウンロード等を制限することが必要でしょう。また、会議等が行われた後は、全ての個人情報について整理収納庫に入れてしまうことは必要でしょう。こうした管理を徹底するためには、管理責任者を定めることも必要と考えます。また、管理組合の保有する個人情報を普段取り扱うことが多いのは、管理組合の役員と思われますので、管理組合業務にしか使用しない旨の誓約書を提出することもお考え下さい。
 いずれにしても、各管理組合で自主的にルールを策定する必要はあると考えます。このようなルールを作り、安全に管理して行くことを住民に周知させることによって、マンション住民相互が自己の個人情報の取扱について不安を抱かなくて良くなりますので、益々快適なマンションライフになると思います。
 なお、ルール作りに当たっては、保護法の直接適用を受けないことによって各自の実情に合わせることが可能なのですから、突然、管理組合の運用を一変させるような厳格過ぎるルールを作るのではなく、運用に無理のないルールにすべきでしょう。そして、ルールを作った後は、実際の運用においてルールの遵守を徹底すべきと考えます。

6.おわりに
 トピックスとして保護法の問題を取り上げましたが、マンション管理組合への直接適用がないという結論に肩透かしの感をお持ちになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、法規制という形で外側から強制されることはありませんが、住民の自主性を尊重するマンション管理組合としては、法規制を直接受けないからこそ、創意工夫によって住民相互の個人情報を保護する必要があります。
 本稿が、こうしたマンション管理組合の自主的な個人情報保護のきっかけの一つとなれば幸いです。


大阪弁護士会
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 弁護士 五島洋

マンション標準管理規約改正について

1 はじめに
 平成16年1月、国土交通省は、従来の「中高層共同住宅標準管理規約」を改正し、「マンション標準管理規約」を公表しました。そこで、ここでは、今回どのような改正がなされたのか概略の説明を致します。

2 マンションにとってなぜ「管理規約」が重要なのか
 「標準管理規約」改正の説明をする前に、まずマンションにとって「管理規約」がなぜ重要なのか、を確認しておきます。マンションでは、複数の区分所有者が1棟の建物を区分して所有しているため、どうしても複雑な権利関係、利用関係を調整する必要性が生じます。ペットの問題、騒音の問題、集会室の利用方法の問題、修繕のやり方の問題など、どれ一つとっても区分所有者間のルールがなければ円滑に進みません。勿論、マンションなど区分所有建物の権利関係や管理運営の基本的なルールを定めた法律に区分所有法がありますが、実際にマンションの管理運営を合理的に行い、トラブルが起きるのを未然に防いで良好なマンションライフを営むためには、区分所有者間の共同のルールを定めておくことが極めて有益です。そこで、区分所有法は、区分所有者が全員でマンションの管理を行うための団体(いわゆる管理組合)を当然に構成すると規定するとともに(同法3条)、区分所有者の集会の多数決決議により、マンションの「管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」については、広く規約で定めることを認めたのです(同法30条、31条)。このように管理規約は、管理組合の最も根本的なルールを定めたものとして大変重要な意味を有しています。国で言えば憲法にあたると言えるでしょう。

3 「標準管理規約」とはどういうものか
 次に「標準管理規約」とはどういうものか説明をします。前記のとおり「管理規約」は管理組合の最も基本的なルールを定めた大変重要なものですが、もともと分譲会社や管理会社が個々に作成していたため、内容がばらばらで、なかには不十分なものや不合理なものも見られました。このような事情にかんがみ、管理組合の役員、消費者団体、分譲会社、管理会社等からの意見を踏まえて、「中高層共同住宅標準管理規約」が作成され、昭和57年5月、建設省(当時)は関係業界団体等に対して、今後管理規約を作成するにあたっては、この「中高層共同住宅標準管理規約」を指針として活用するよう通達したものです。このように、もともと「中高層共同住宅標準管理規約」は、「分譲業者がマンションを分譲する際の標準的モデル」と位置づけられていたのですが、今度の改正で、「管理組合が各マンションの実態に応じて、管理規約を制定・変更する際の参考」という位置づけにされ、名前も「マンション標準管理規約」と変更されました。いずれにしても、典型的な管理規約のあり方を示すものとして大変重要なものです。

4 「標準管理規約」はなぜ改正されたのか
 それでは今回なぜこの「標準管理規約」が改正されたのでしょうか。その理由は大きく分けると、[1]マンション管理に関する新しい法律や法改正が行われたこと、[2]マンションを取り巻く情勢が様々な面で変化したこと、の2つがあります。まず、[1]ですが、平成13年8月「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(以下「適正化法」)が、平成14年12月に「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」(以下「円滑化法」)が施行され、さらに平成15年6月には区分所有法の一部改正が施行されました。「管理規約」は管理組合の最も基本的な自治ルールですが、当然、区分所有法などの法律に反することはできません。また適正化法では「マンション管理士」などの新たな専門家が創設され、円滑化法では建替えの主体となる「建替組合」に関する規定が新たに整備されました。これらを踏まえた必要な改正が行われた、ということです。次に[2]のマンションを取り巻く情勢の変化は様々なことが挙げられますが、例えば、建築後30年を越えるマンションが17万戸程度あり10年後には100万戸になると試算され、大規模修繕や建替えを検討するマンションが急増すると予想されていること、全国で約430万戸・約1100万人が居住するという状況下、マンション内でのコミュニティ形成の重要性が認識されるに至っていること、昨今の不況の影響もあり未納管理費問題で悩むマンションが急増していること、防音・断熱などの環境問題や防犯意識の高まりなどが挙げられます。

5 「標準管理規約」改正のポイントは
 それでは今回の「標準管理規約」改正のポイントはどこにあるのでしょうか。その詳細は国土交通省のホームページなどをご覧頂くとして、以下、ポイントだけおさえておきます。なお、条文はいずれも単棟型です。

(1)法改定に伴う改正
[1] 専門知識を有する者の活用
 適正化法の規定を踏まえ、管理組合は、マンション管理士その他マンション管理に関する各分野の専門的知識を有する者に対し、管理組合の運営その他マンション管理に関し、相談したり、助言、指導その他の援助を求めたりすることができることとし(34条)、そのための費用を管理費の支出事項として規定(27条第9号)しました。これまでにも大規模修繕を検討する場合に建築士の協力を求めたり、管理費滞納問題で弁護士の協力を求めたりしたケースはありましたが、より身近に日常的にマンション管理の専門家の協力を得つつ、管理組合運営を行うことを提言したものと理解できます。
[2] 建替えに関する規定の整備
 前記のとおり、10年後には建築後30年を超えるマンションが100万戸を超えると試算され、老朽化マンションの建替え問題は一つの社会問題となる可能性があります。このため、より建替え決議を行いやすいよう区分所有法の改正(「過分の費用」要件の削除)が行われ、また他方で建替え決議に至るまでに説明会開催を義務付けるなど、より慎重に手続を進めることを要請する改正も行われました。さらに、円滑化法制定により、建替え決議後に法人格を有する建替組合設立を認めること等で、マンション建替えという大事業遂行の筋道が示されました。しかしながら、これら法改正が行われても、建替え決議の前段階の調査が円滑に行われることや、建替え決議後、建替組合設立までの段階で資金的裏付けができていなければ、実際のマンション建替えは円滑に進みません。そこで、建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査に関する業務を、管理組合の業務として追加(32条第4号等)するとともに、そのための費用を修繕積立金から取り崩すことができる事項として追加(28条第1項第4号等)しました。さらに、建替えに係る合意の後も、建替組合の設立認可等までの間は、管理組合消滅時に建替え不参加者に帰属する修繕積立金相当額を除いた額を限度として、建替えに係る計画、設計に必要な事項の費用を修繕積立金から取り崩すことができる旨を規定(28条第2項等)しています。
[3] 決議要件や電子化に関する規定の整備
 (イ)従来の区分所有法17条1項では、共用部分の変更について、著しく多額の費用を要する行為を実施する場合には、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の特別多数決が必要とされており、このため建物の維持・保全の観点から実施される定期的な大規模修繕までが特別多数決が必要とされ、建物の適正管理に支障が生じる場合があるとの指摘がされていました。そこで、先般の区分所有法改正で共用部分の変更について、その形状または効用の著しい変更を伴わないものは、普通決議で足りるとされました。この改正を踏まえ、普通決議で実施可能な範囲を「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」と規定(47条第3項第2号等)するとともに、普通決議で実施可能な工事例、特別決議を必要とする工事例がコメントに記載されました(47条関係)。コメントでは、バリアフリー化の工事、耐震改修工事、防犯化工事、IT化工事、計画修繕工事など、近時よく行われる工事を具体的に挙げた上で、普通決議で足りる場合と特別多数決が必要な場合を解説しています。いずれの決議によるべきかは、場合によっては決議の無効など重大な問題にも繋がる点ですから、是非とも、このコメントを参考にして頂き、また疑問があれば弁護士・建築士などのアドバイスを受けるようにして頂ければと思います。なお、管理規約を改正するまでは、管理規約上は著しく多額の費用を要する共用部分の変更には特別多数決が必要とする規定が残ることとなりますが、基本的には今般の区分所有法改正で、たとえ著しく多額の費用を要する共用部分の変更であっても、「形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」であれば、普通決議で足りると解釈されると思われます。(ロ)さらに、改正区分所有法の規定を踏まえ、電磁的記録による議事録作成や電磁的方法による決議等に関し、管理組合における電磁的方法が利用可能な場合、利用可能ではない場合に分けて規定を整備(49条・50条等)しています。

(2)マンションを取り巻く情勢の変化を踏まえた改正
[1] 新しい管理組合業務の追加
 (イ)今後老朽化マンションが急増すると、ますます適切な修繕を適切な時期に行うことが必要とされます。そしてそのためには、工事施工業者や修繕の費用、個所、時期等の修繕についての履歴情報を整理して後に参照できるよう管理することが大変重要になってきます。そこで、修繕等の履歴情報の整理及び管理等(32条第6号等)を管理組合の業務として規定しました。(ロ)マンションに関するトラブルの法律相談では、最低限のコミュニティがマンションの区分所有者の間に形成されていれば、ここまで大きな問題とならなかったのに、と思わされることがよくあります。また、大規模修繕などを比較的うまく進めることができたマンションでは、日常的なコミュニティが形成されていたケースが多いようです。このようなことを踏まえ、管理組合の業務として、地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成(32条第15号等)を規定しています。
[2] 未納管理費の請求に関する規定の充実
 弁護士が管理組合から受ける相談で最も多い相談はやはり未納管理費の問題です。去る平成16年4月23日、最高裁判所はマンション管理費は5年間で請求権が消滅する「定期給付債権」(民法169条)にあたるとの判断を示し、今後はますます未納管理費の請求は速やかに且つ適切に行う必要が出てきました。管理費はマンションの維持、管理の財源でありその滞納は適正管理を脅かす問題ですから、滞納問題に適時適切に対応できるよう、共用部分の管理に関する事項は、原則総会決議で決するところ、未納の管理費等の請求に関しては、理事会決議により、理事長が、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる旨などを規定(60条第3項等)しています。
[3] 環境問題、防犯問題への対応の充実
 昨今の防音・省エネなどの環境問題や防犯問題への意識の高まりを受け、これらの性能向上を目的とする工事を希望する管理組合や区分所有者が増えてきています。そこで、窓ガラス、窓枠等の開口部に関する工事で、防犯や防音、断熱等の住宅の性能の向上や省エネなど地球環境に役立つ工事については、まず、管理組合がその責任と負担において計画修繕として実施するものとしつつ、仮に管理組合が速やかに工事を実施できない場合は、区分所有者の責任と負担で実施することについて細則を定める旨を規定(22条等)しました。たとえば区分所有者が先に工事をする場合、自費で行うこととなると思われますが、後になって管理組合全体でやると決められた場合、その費用負担をどのようにするか、などを細則で定めることとなると思われます。

6 おわりに
 適正化法4条1項では、「管理組合は、マンション管理適正化指針の定めるところに留意して、マンションを適正に管理するよう努めなければならない」とされ、他方、同法5条では、「国…は、マンションの管理の適正化に資するため、管理組合…の求めに応じ、必要な情報及び資料の提供…を講ずるよう努めなければならない」とされました。このため、前記のとおり、今回の改正により「標準管理規約」は、「管理組合が各マンションの実態に応じて、管理規約を制定、変更する際の参考」という位置づけとされました。皆さんのお住まいのマンションはそれぞれ建築年数や置かれた環境、住民の考え方も色々異なりますので、全ての管理規約を今回の改正されたものに統一する必要はありません。ただ、今一度、現在の管理規約を見つめなおして、その実情に応じた改正を検討されることをお勧めします。


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区分所有法の改正について

1 はじめに
 平成14年12月、区分所有法(以下単に「法」と言います。)が大幅に改正され、平成15年6月1日から施行されました。今では私達の暮らしにマンションは切っても切れないものになっており、関心をお持ちの方も多いと思いますので、今回はこの改正の概要をお知らせします。

2 改正の項目と内容
 今回の改正は大きく分けると(1)管理の適正化に関する改正と(2)建替えの円滑化に関する改正が中心です。以下、その概略を説明します。

(1)管理の適正化に関する改正
[1] 共用部分の変更(法17条改正)
 マンションの共用部分の管理は法18条、39条1項により集会の普通決議(区分所有者及び議決権の各過半数)により行われることになっていますが、共用部分の「変更」に該当する場合には、法17条で区分所有者及び議決権の各4分の3以上の特別多数決が必要とされています。そして、改正前の条文の文言では、「共用部分の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する。」とされていたため、10年、20年が経過した後に計画的に行われる大規模修繕も「著しく多額の費用を要する」として特別多数決が必要と解される余地がありました。しかしながら、このような計画的に行われる大規模修繕までもが共用部分の「変更」にあたるとして特別多数決が必要とされると、建物の維持・保全に必要な修繕を機動的に実施できないとの批判がありました。そこで今回の改正法では、「共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く)は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する。」とし、「形状又は効用の著しい変更」を伴わない以上、集会の普通決議によれば足りることを明確にしました。この点、「形状又は効用の著しい変更」にあたるかどうかは、変更を加える箇所・範囲・態様・程度などを総合的に判断することとなります。例えば階段室を改造してエレベーター室にする場合は「形状の著しい変更」に、集会室を廃止して賃貸店舗の転用することは「効用の著しい変更」に該当すると考えられますが、マンションのバリアフリー化やIT化等を建物の基本的構造部分を取り壊さずに行う場合には、普通決議で足ることとなるでしょう。
[2] 管理者等の権限の拡充(法26条2項改正、47条6〜9項改正・新設)
 今回の改正では、管理者は、共用部分ならびに建物の敷地および附属施設(以下「共用部分等」)について生じた損害賠償金および不当利得による返還金の請求および受領に関し、区分所有者を代理し、また、規約または集会の決議により、区分所有者のために、原告または被告となることができるものとしました。この点、改正前には、例えば損壊行為等の不法行為により共用部分等に損害が生じた場合の損害賠償金や建築工事の瑕疵担保責任に基づく損害賠償金などの請求および受領については、各区分所有者が持分割合に応じて権利行使をするものとされていましたが、管理者が各区分所有者を代理して一元的に請求し受領することができるものとした方が、建物の円滑かつ適正な管理につながるものと考えられるため、このような改正が行われたものです。
[3] 規約の適正化(法30条3項新設)
 「規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない」ということが明文化されました。規約は管理組合の最も基本的なルールを定めたものですが、規約の中には、一部の区分所有者に特に有利な内容が入れられるなど著しく不均衡な内容のものも見られ、区分所有者相互間や、区分所有者と建物の分譲業者との間の争いの原因となるケースがありました。そこで、これまでに規約の適正さが争われた裁判例(例えば、法人区分所有者と個人区分所有者との間で管理費等の負担金額に差を設けた規約の効力が争われた東京地裁平成2年7月24日判決・判例時報1382号83頁、マンション分譲業者で分譲後も引き続きマンションの一部の区分所有権を保有する者が駐車場、屋外広告塔等を専用使用する権利を原始規約において認められていることの効力が争われた事例・東京高裁昭和59年11月29日判決・判例時報1139号44頁)などで実際に考慮に入れられた要素を参考にして上記条項が新設されました。
[4] 管理組合の法人化の要件緩和(法47条1項改正)
 従来は区分所有者の数が30人以上ある管理組合のみが法人格を取得することが認められていましたが、今回の改正では区分所有者の数が2人以上の管理組合に法人格を取得することを認めることにしました。
[5]
規約・議事録等および集会・決議の電子化等(法30条5項・規約、法33条2項・規約の閲覧、法39条3項・集会での議決権行使方法、法42条・集会議事録、法45条・書面又は電磁的方法による集会決議)
 IT時代に相応しく規約や集会議事録を磁気ディスク、磁気テープ、フロッピー・ディスク、CD‐ROMなどにより作成することを認めるとともに、集会における議決権を電子メールなどで行使することができるようにする道を開きました。
[6] 復旧手続の改正(法61条改正)
 建物の一部滅失の場合のうち、建物の価格の2分の1を超える部分が滅失したとき(大規模滅失)の復旧手続を改正するものです。特に従前の条文では買取請求権を誰に対して行使するかは、復旧決議に賛成しなかった区分所有者の意思に委ねられていたため、買取請求が特定の者に集中するという不都合がありました。そこで、(イ)買取指定者制度(決議賛成者の全員の合意で決議の日から2週間以内に買取請求の相手方を指定し、その指定された者がその旨を決議に賛成しなかった区分所有者に書面で通知した場合には、その通知を受けた区分所有者は、その買取指定者に対してのみ買取請求ができる制度)及び(ロ)再買取請求制度(買取指定者の指定がされなかった場合に、買取請求を受けた決議賛成者が、他の決議賛成者に対し、その持分に応じた再買取請求をすることができる制度)を創設しました。また、従前の条文では買取請求権の行使期限が定められていなかったため、実際に工事開始後に行使されるなどの不都合がありました。そこで、復旧決議を行った集会を招集した者が4ヶ月以上の期間を定めて買取請求権を行使するか否かを催告して、この期間を経過したときは買取請求が行使できなくなることとしました。
(2)建替えの円滑化に関する改正
[1] 建替え決議の要件の緩和(法62条改正及び新設)
 従来は、建替え決議を行うためには、集会で区分所有者および議決権の各5分の4以上の特別多数決に加え、「老朽、損傷、一部の滅失その他の事由により、建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至ったとき」という、いわゆる「過分の費用」の要件が必要とされていましたが、今回の改正でこの「過分の費用」の要件が削除されました。というのも、「過分の費用」という要件の意味内容が不明確で、実際にこの要件を巡って訴訟で争われ建替えが進まない事態が生じたためです。また、今後、老朽化して建替えを選択しなければならないマンションが増えると予想される中、建替え決議の要件を緩和すべき、との背景もあったようです。ただ、コンクリートの寿命は実際にはかなり長いと言われ、環境の世紀、リサイクルの時代を考えると、この改正によって安易な建替えが出てこないか、若干心配な点もあります。また、これまでは建替え決議により新たに建物を建築する場合、既存の建物の敷地と同一の土地に建築しなければならないものとされていましたが、この敷地の同一性の要件を緩和し、既存の建物の敷地と同一でなくとも、これと一部でも重なっている土地であればよいとしました。この改正により、例えば敷地に余裕があるケースでは、建替え費用捻出のために敷地の一部を売却することや、逆に規模の大きな建物に建替えるために敷地の買い増しを行って新たな建物を建築することができるようになりました。さらに、従前は新たに建築する建物は既存の建物と「主たる使用目的同一」でなければならないとされていましたが、この要件も廃止されました。その他、招集通知発信時期や招集通知記載事項の追加、説明会開催の義務付などが行われました。
[2] 団地内建物の建替え承認決議(法69条新設)
 従来は複数の区分所有建物が敷地を共通する団地において、その中の1棟の建物を取り壊し、新たな建物に建替えようとする場合の手続規定が設けておらず、各建物の敷地全体が全建物の区分所有者の共有に属する場合にあっては、民法の共有の規定に従うことになり、共有物の変更(民法251条)として敷地共有者全員の合意を要するとの解釈がありました。しかし、実際に敷地共有者全員の合意を得ることは不可能に近く、極く少数の敷地共有者の同意が得られずに1棟の建替えができなくなるのは不合理ではないか、との指摘がありました。そこで、今回の改正では、団地内にある数棟の建物の全部又は一部が区分所有建物であり、かつ、その団地内の特定の建物の所在する土地が団地建物所有者の共有に属している場合には、その団地建物所有者で構成される団地管理組合の集会において議決権の4分の3以上の多数による建替え承認決議が有った場合には、当該特定建物で建替え決議(区分所有者及び議決権の各5分の4以上)があれば、団地内の特定の建物の建替えが実施できることにされました。
[3] 団地内建物の一括建替え決議(法70条新設)
 団地内の建物が全て区分所有建物であり、かつ当該敷地がその団地内の建物の区分所有者の共有に属する場合で、しかも各々の団地内建物を団地全体で管理するという規約が定められている場合には、団地管理組合の5分の4以上の多数で、一括して団地内建物の建替えを行う旨の決議をすることができるとされました。ただし、その集会において各団地内建物ごとに、それぞれの3分の2以上がその一括建替え決議に賛成していなければならない、ということでバランスを取りました。
(3)マンション建替えの円滑化等に関する法律
 また、区分所有法の改正ではありませんが、実際に建替え決議を行ってから、どのように事業を進めていくのかという点に関し、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」も平成14年12月から施行されています。この法律では建替え決議を行った後のマンション建替え組合に法人格を付与し、組合が権利変換計画を定め、計画に従った権利変換を行うことにより抵当権者や借家人などの権利との調整を行うこととされています。手法としては都市再開発法と同様のものであり、これによってマンション建替え事業を円滑に進めようとするものです。実際にこの法律を使った事例も表れています。
以上

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