判例教室

分譲貸し物件における賃借人の規約違反(ペット飼育行為)について、 賃貸人たる区分所有者の責任と弁護士費用請求の可否/東京地方裁判所平成28年3月18日判決

東京地方裁判所平成28年3月18日判決

●事例
区分所有者Yが、賃借人に自ら所有する物件を賃貸していたところ、賃借人がマンション管理規約及び細則(併せて「本件規則等」という。)で禁じられている屋内での犬の飼育を行っていた。マンション管理組合XはY及び賃借人に対し、犬の飼育の中止と、訴訟の提起に必要となった弁護士費用の請求を行った。なお、賃借人のペット飼育行為が管理規約違反であることは明らかなので、ここでは区分所有者Yの責任についてのみ記載します。

(1) 区分所有者に対してペットの飼育禁止を求めることが出来るか

●Yの反論
ペットを飼育しているのは賃借人であって、Y自身ではないからYは責任を負わない。
●結論

裁判所は、「本件規約等によれば、本件建物の区分所有者は本件規則等の順守義務を負い、借家人に対しても本件規則等を順守させる義務を負う」ことを前提に、「被告Yは賃借人」・・・「に対し、本件規則等を順守し、本件ペットを飼育しないようにさせる義務を有していること、これを被告Yが履行できていないことは明らかであるから、被告Yが、本件規則等につき債務不履行責任を負う」として、Yの責任を認めました。

※分譲貸しを行う区分所有者は、賃借人の規約違反についても責任を負います。違反行為の是正を求めたい管理組合としては、実際に居住する賃借人と区分所有者の双方を相手に争うのが良いでしょう。その後も賃借人が違法行為を止めない場合は、賃貸人である区分所有者が、賃貸借契約を解除して、賃借人に対し退去を求めることになるでしょう。


(2)区分所有者に対して弁護士費用の請求ができるか

●結論

本件ではYの不法行為責任を認めず、弁護士費用請求は棄却されました。

ア 弁護士費用請求についての一般論

弁護士費用は当事者にとって大きな負担ですが、原則として、紛争の相手方に弁護士費用を損害賠償の一部として請求することは出来ません。
弁護士は相手のためではなく、自分のために(弁護士の紛争解決能力を享受するために)委任するから、というのがその理由です。例外的に弁護士費用の請求が認められるのは、被告の不法行為責任が肯定された場合ですが、単なる管理規約違反が不法行為と判断されることは少ないようです。

イ 管理規約で弁護士費用が請求出来る旨規定した場合

管理組合と区分所有者間で紛争が発生した場合に、弁護士費用を請求出来る旨、管理規約で規定した場合は、不法行為責任が肯定されなくとも、弁護士費用を請求することが出来ます(標準管理規約でも第60条や第67条に弁護士費用を併せて請求出来る旨の規定があります)。ただし、弁護士に支払った費用の全額が請求出来るわけではなく、一部の「相当な」額に限られます。事情によっては全額が認められることもありますが(例えば東京地方裁判所平成28年3月23日判決)、一般的には概ね勝ち得た額の一割程度です。

●興味深い裁判例(東京地方裁判所平成28年1月19日判決)

区分所有者が管理組合の請求に応じないため、管理組合が訴訟提起のために弁護士に事件を委任し、訴訟提起のための着手金を支払った。訴訟提起直前に、弁護士からの訴訟提起予告通知に驚いた区分所有者が、管理組合の請求に応じたため、訴訟提起が不要になった事例。

●状況

管理組合は弁護士に対し、幾らかお金が返ってくるのか尋ねたところ、弁護士は一部返金の可能性を残しつつも、訴訟提起の準備は訴状の作成を含めて全て整っており、必要な業務は行っているので、その点は理解して欲しい、という趣旨の返答をした。管理組合はこの返答を受けて、それ以上返金を求める交渉をしなかった。

●結論

裁判所はこの点、弁護士が返金の可能性を否定していない以上、管理組合は返金に向けた協議を行うべきで、それをしなかったということは、管理組合は自らの意思で返金請求権を放棄したのだ、と評価しました。そして、返金を受けられた可能性のある額については、相当な額として認めませんでした。

※弁護士の仕事の量が当初の予定より減少した場合、着手金と報酬をどのように調整するかは、弁護士ごと、またケースにより異なります。委任契約上は、「着手金は返還しない」とされていることが多く、さらに、結局目的を達成したのであるから当初の契約通りの着手金と報酬を変更しないことも多いようです。このとき、重要なことは、管理組合は弁護士と着手金・報酬の精算についてしっかり話し合い、その結果を書面で残し、返金請求権の放棄をしたと評価されることがないようにしておくことです。それでも裁判所により減額される可能性はありますが、その減額は最小限となるでしょう。