セミナー情報

平成24年度「マンション管理の基礎知識」基礎セミナー報告 7/1, 8, 29

開催日時:2012年7月1日(日)・8日(日)・29日(日)

7月1日(日) 第1日目−1

講座 マンションに住むということ
マンションに住むということ 講師

居住者すべてが快適に暮らすための
生活ルール。それが「管理規約」です。
〈講師〉大阪弁護士会 細川 良造 (ほそかわ りょうぞう)


マンションの現況  国土交通省の調査では、全国の分譲マ ンションストック戸数は平成23年度末時 点で579万戸、 居住人口は約1,400万人と 推定されており、マンションは現代社会の 重要な居住形態として定着するに至って います。同省の平成20年度「マンション総 合調査」(以下、「平成20年度調査」といい ます)によれば、マンションの世帯主の年 齢は60歳以上が平成15年度31.6%から 39.4%に増加しており、居住者の高齢化 が見て取れます。また、永住意識も高まる 傾向にあり、約半数の区分所有者がマン ションに永住するつもりであると考えて いる状況にあります。 区分所有法ついて  マンションは1つの建物を多くの人が 区分して所有するため、権利・利用関係 が複雑で、戸建て住宅とは違った生活上 のルール、制約があります。それを規律 するために、「区分所有法」や「マンション 管理適正化法」などの法律が定められて います。ただ、民法では、一物一権主義の 原則といって、所有権は一つの物に対し ては一つしか認めていません。そこで同 原則の例外規定として、一戸ごとに所有 権を認める「区分所有権」という制度が 設けられました。
 分譲マンションは「専有部分」と「共用部 分」に分けられます。「専有部分」とは、各 住戸の内部など、構造上区分され、それぞ れ独立して住居・店舗・事務所等の用途に 使用することのできる部分をいい、区分 所有者は法令の制限内において自由に使 用、収益、処分できます。一方、「共用部 分」とは、建物構造部分や床、廊下、階段 室、エレベーター、共有設備、集会室、倉 庫など、専有部分以外の建物の部分をい い、区分所有者全員の共有となります。そ の持分は原則として専有部分の床面積割 合によるため、共用部分に掛かる費用等 は、規約に別段の定めがない限り、持分に 応じて負担することになります。 マンション管理について  管理組合は、マンション管理の主体と なる団体で、区分所有者は全員、所有す るマンションの管理組合に加入する義務 があります。管理組合では、マンション運 営の意思決定機関としてマンションにか かわる幅広い管理業務を行いますが、居 住者間の共通ルールを作ったり、様々な 合意形成をするための集会(総会)を少な くとも毎年1回開くことが義務づけられて います。
 マンションの居住者すべてが快適に暮 らすためには、全員が守るべき生活ルー ルが必要になります。それが「管理規約」 です。国土交通省が標準モデルとして「マ ンション標準管理規約」を発表しているの で、各管理組合が管理規約を独自に作成・ 変更する際の参考になります。 日常生活をめぐる問題について  マンションは一戸建てと異なり、建物の 構造上および利用上の特殊性から、様々 なトラブルが起こりがちです。平成20年 度調査によると、約8割のマンションが、何 らかのトラブルを抱えています。なかでも、 ペット問題や違法駐車の問題は多くのマ ンションでトラブルになっています。ペット 問題については、飼育マナー違反や、ペッ ト禁止マンションでの飼育など、様々なト ラブルが発生しています。ペット飼育の可 否については、飼育の問題点と効用を加 味して判断し、そのペットのみ一代限りで 飼育を認める等、柔軟に話し合い、使用細 則を設ける等で対応していただきたいと 思います。
 違法駐車については、その停車場所が 公道の場合は警察署に通報すれば良いで すが、マンション敷地内である場合は強制 的に撤去することは許されません。その 場合は、掲示や張り紙等で警告したり、車 の持ち主を特定し、直接本人に通告し、移 動してもらうことになります。それでも、解 決できない場合は、強制的に撤去せずに 専門家に相談することをお勧めします。 補修・建替え等について  マンションを長持ちさせて、住み心地 よくしていくためには、計画的な補修・復 旧工事を行うことが必要です。昭和62年 度から平成20年度の変化をみると、長期 修繕計画を作成している管理組合の割合 は増加傾向にあり、平成20年度は89.0% のマンションで長期修繕計画を作成して います。また、建替えについては0.5%の マンションが具体的に検討している一方、 まったく検討していないマンションが 65.7%、建替えより当面は改修工事で対 応していく予定のマンションが13.8%と なっています。  マンションは、区分所有者の数が多い ため、合意形成には時間がかかります。日 頃から老朽化や建替えといった問題につ いて皆さんで議論し、先を見据えて調査 するなど早め早めの取り組みを進めてい きましょう。  マンションには多様な価値観を持った 人が住んでいます。このことを受け入れた うえで、現在、将来にわたって快適な居住 環境を確保できるよう、一人ひとりが意識 してマンション生活を送り、また、マンショ ン管理に積極的に関与していくことが重 要と思います。

7月1日(日) 第1日目−2

講座 管理組合会計と駐車場の外部貸し
管理組合会計と駐車場の外部貸し 講師

区分経理を行うこと、
常にチェックすることが重要です。
〈講師〉近畿税理士会 吉岡 哲史 (よしおか てつし)


【Ⅰ】管理組合会計について 管理組合会計の目的と財務諸表(決算書類)  管理組合会計の目的は、マンションの 維持管理の費用を最小限に抑え、最大限 の効果を得ることで、マンションの価値喪 失を抑えたり、満足できる住環境にするこ とにあります。
 管理組合会計の基本原則は、予算に基 づく会計を行う必要があることから、企業 が用いる会計に、公益法人会計の考えを 取り入れたものになっています。
 法令などによる制約も特になく、ご自身 のマンションをきちんと維持管理するた め、計画に基づいて予算を達成し、その予 算と実際の収支との値を分析することに より、予算の執行が適当であったか否か、 その原因と責任の所在を明確にすること ができます。
 財務諸表とは、通常4月から翌年3月の 期間内の収入と支出の総計算をするこ とをいい、収支予算書、収支計算書、貸借 対照表、正味財産増減計算書、財産目録 の5つの書類から成ります。その他、補助 簿として、管理費台帳や備品台帳などを 作成、保存していただければ完璧だと思 います。
 近年はパソコン会計ソフトがかなり低 価格になって簡単に手に入り、転記の際 の金額の誤記などのミスもなくなるため、 会計ソフトの導入を積極的に検討してい ただければ良いかと思います。 管理組合会計特有の原則と 注意点  管理組合会計の原則は「区分経理」を すること、つまり日常の維持管理に必要な 一般会計(管理費会計)と、臨時的に特別 に必要な修繕費に備えるための特別会計 (修繕積立金会計)を必ず分けることです。 こうすることによって、管理費をまかなう ために修繕積立金を取り崩すようなこと が避けられます。その他、管理組合が収益 事業を行う場合は、収益事業による会計 を一般会計とは区別し、修繕積立金とは 別の、もう一つの特別会計として区分経 理を必ず行ってください。
 注意点としては、まず、常にチェックする クセをつけること。最低でも月に一度は総 勘定元帳や試算表を預金通帳や預金残 高証明書をチェックする必要があります。 また、会計業務を管理会社に任せている 場合でも、管理会社が作成した帳面の数 値に異常がないかチェックするようにして ください。こうした手間のかかるチェック については、専門家である税理士や会計 士に依頼することで、異常な資金流出を 防ぐこともできます。
 もう一つの注意点として、しっかりした 内部牽制制度の確立をぜひ行ってくださ い。例えば通帳と印鑑を同じ方が保管して いる管理組合はこれを是正すべきです し、管理組合のキャッシュカードを作り、引 き出しが容易に行える状態も避けるべき です。住民の皆さん同士でも、やはり互い に牽制し合えるようにし、安心して暮らし ていただきたいと思います。  近年、若者や高齢者の車離れにより、都 市部を中心に空き駐車場が増加傾向にあ り、駐車場の有効活用のために外部への 賃貸を行っているマンションも増えてい るようです。
 マンションの駐車場の使用を区分所有 者または居住者のみとしている場合は、 基本的には課税対象外になります。しか し、外部貸し駐車場は収益事業であり、法 人税の納税義務が生じます。なお、外部貸 しを行う場合、管理組合会計は非収益事 業ですが、駐車場事業会計は収益事業と なるので、前に申しあげた区分経理を必 ず行ってください。
 経費の算定に関する注意事項として、 例えば、機械式駐車場の保守費の経費算 入は、不課税部分と課税される外部貸し 部分の負担割合を合理的かつ適正に評 価し算出しなければなりません。その他、 収益事業を行う場合、管理組合会計では 必要とされない減価償却の算定が新たに 必要となるので、ご注意ください。 外部貸しの法人税課税に関する 国税庁の見解  マンション駐車場の外部貸しについて は、これまで法人税の課税基準が定まっ ておらず、税務署によって判断が異なると いった事態が起きていました。こうした問 題を解決すべく、国税庁はこのほど、国土 交通省の照会に回答する形で、分譲マン ションにおける空き駐車場を外部に賃貸 する場合の収益事業性を判定し、区分所 有者に対する「優先性」が確保されている 場合は、外部使用部分のみが収益事業と みなされ、法人税が課税されることが明 確になりました。ただし、この回答には、管 理規約の記載事項に関する特定の前提条 件もあり、皆さんの管理組合の条件に必 ずしも一致するものではありません。した がって、皆さんが行う具体的な取引等に 適用する場合においては、この回答内容 と異なる課税関係が生ずることがありま すので、個々の管理組合の具体的な事例 については、ご自身で判断せず、所轄の税 務署に相談されるようお願いいたします。

7月8日(日) 第2日目−1

講座 マンション管理のトラブル
マンション管理のトラブル 講師

適切にトラブルに対応することが
快適なマンションライフに繋がります。
〈講師〉大阪市立住まい情報センター マンション管理相談員 宇都宮 忠 (うつのみや ただし)


  マンションでは、複数の人が左右上下にそれぞれ壁ひとつを隔 てて住むことから、様々なトラブルが起きやすく、居住者が快適 に暮らしていくにはトラブルをいかになくすかが重要になります。 私は大阪市立住まい情報センターのマンション管理相談員とし て様々なご相談を受けていますが、今回はこれまでに寄せられた 相談の中から、6つのトラブル事例を紹介します。 Ⅰ.居住者間のトラブル 〈事例1〉上階がフローリングにリフォームしてから騒音 がひどくなった。

 「違法駐車・駐輪」「ペット飼育」と並んで、マンション居住者間の3大トラ ブルの一つといわれているのが「生活音」です。中でも深刻化しがちなの が、足音などから発生する生活騒音で、この事例のように、上階の人が カーペット敷きのフロアをフローリングに変更したために、下階との間でト ラブルになるケースです。騒音の受忍限度には個人差があります。この場 合、当事者同士の話し合いだけではどうしても感情的になりやすいので、 間に理事が入って双方から話を聞き、互いに歩み寄ってもらうのがいいで しょう。使用細則等で、規定の遮音基準以上のフローリング使用、階下居 住者への同意取り付けなどをきちんとルール化しておくのも有効です。

〈事例2〉上階の排水管から水漏れがあった。下階の天井 裏に通っている管であった。補修費用は上階の区分所有 者が負担するのか、管理組合が負担すべきか。

 この場合、排水管のどこまでが専有部分なのかが問題となります。ただ し、この事例のように、下階の天井裏に配置されている場合の排水管につ いては、上階住戸から点検・修理を行うことは不可能であることから、共用 部分として取り扱うのが相当であるとした判例があります。従ってこの場 合は、上階住戸ではなく、管理組合が費用負担して修理したり、被害住戸 に対して損害賠償することになります。なお、水漏れの原因が専有部分か らなのか、共用部分からなのかが不明の場合は、区分所有法の規定で共 用部分に原因があるものと推定するとしています。皆さんのマンションで も、排水管がどうなっているのか、一度調べておかれることをお勧めします。   Ⅱ.居住者と管理組合とのトラブル 〈事例3〉同じ人たちが長年にわたって理事会を牛耳っ ている。

 一般的に、規約では「役員の任期は1年とする。ただし、再任を妨げな い。」などとしている管理組合が多いのではないでしょうか。ただ、これで は再任に歯止めがなく、同一人が長年役員に就任することが可能になっ ています。やる気のある適任者に長期間役員を続けてもらうのがいい場 合もありますが、反面、特定の人物の意見ばかりが通用するという弊害も 出てきます。できれば、居住者の皆さんに管理組合活動に対する理解と 認識を深めてもらえるよう、できるだけ多くの人に役員を経験してもらう 方がいいのではないでしょうか。そのためには、例えば再任の限度を2期 や3期までとするような規約改正をしたり、長期再任の候補者に対して、 多くの人からの申し入れで遠慮してもらうといった対処が考えられます。

〈事例4〉居住者の多くが管理組合運営に無関心である。

 管理組合の業務に無関心な居住者が増えているのは、どのマン ションにも見られる共通の悩みです。この無関心をなくすにはどのよ うにすればいいのでしょうか。その原因についてアンケートなどで意 識調査をしてみるのもひとつの方法です。日常的に管理組合の業務 や維持保全の現状についてこまめに広報することによって意思の疎 通を図り、ある程度の関心が出てきた段階で、意見交換会などを開 いてみてはいかがでしょう。また、新規入居者のために茶話会などを 開いたり、総会の前後に、消防訓練やフリーマーケット、抽選会などの 行事を併せて行うのも、管理組合員としての意識を高めるのに役立 つでしょう。   Ⅲ.管理組合と管理会社とのトラブル 〈事例5〉竣工以来、同じ管理会社と契約しており、管理 委託料が適正かどうか分からない。

 管理委託料が適正かどうかを考えるためには、まず、現行の委託契約 書・仕様書の内容を確認することが必要です。そして、分からないことは 質問して管理会社から説明を受け、曖昧な点をできるだけ明確にします。 これによって管理会社の仕事量が分かってくるので、実際にどれだけの 手間が必要なのかを確認します。このように管理組合から積極的に働き かけることで、管理会社にも適度な緊張感を保たせることができます。マ ンションの状況はそれぞれ異なるため、単純な金額比較はできませんが、 別の管理会社から相見積りを取ってみることも考えられます。その場合 は、管理組合で何を委託したいのか、現行の委託内容でいいのかを検討 して仕様を決め、それによって見積りを依頼することになります。

〈事例6〉管理会社を変更したいが、どうすればよいか。

 アンケートなどで管理会社に対する組合員の不満、希望を聞き、不満 が多ければ、まずは現行の管理会社に改善の申し入れをしましょう。それ で改善されればそれが一番良いのであって、新たな管理会社に変更し たからといって、良くなるという保証はありません。ただし、申し入れをし ても改善が見込めなければ、管理会社の変更を具合的に検討すること になります。管理会社の変更には、複数業者への見積り依頼、ヒアリング の開催、新たな業者の選定、区分所有者全員に対する重要事項説明会 の開催、総会決議による管理会社決定、業務の引継ぎといった様々な手 続きが必要で、大変なエネルギーを要します。これらの経緯は、 文書にしてすべての組合員に伝えて意思統一を図り、それを 基に管理組合が主体性を持って管理会社と関わっていくことが重要です。

7月8日(日) 第2日目−2

講座 大規模修繕のポイント~2,30年先を見据えて
大規模修繕のポイント~2,30年先を見据えて 講師

「どれくらいもつか」ではなく
「どれくらいもたせたいか」を考えるべきです。
〈講師〉社団法人 大阪府建築士会 今井 俊夫 (いまい としお)


人口減少、高齢化への適切な対応  マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値を維持していく には、計画的な修繕工事の実施が不可欠です。本日は「大規模修繕 工事のポイント」と題して、主にマンション管理のハード面のお話と いうことでお聞きいただければと思います。
 分譲マンションは、2010年末時点でストック数が570万戸超、居住 人口が約1,400万人と推計され、今や都市における一般的な居住形 態として定着しています。マンションストックが年々増加するにつれ て、築後30年以上を経たマンションも急増。これらマンションの維持 管理や老朽化への対応が社会的な問題となっています。マンション の供給過多が続き、空き部屋が増えれば、適正管理は難しくなり、コ ミュニティの質や資産価値が低下してきます。さらに、建物の老朽化 と同時に進行するのが、所有者の高齢化です。高齢化の進展は、マ ンション管理、ひいては大規模修繕にも大きな影響をもたらします。 高齢化と大規模修繕とは一見関係がないように思いますが、実は大 規模修繕には相当の財力・気力・体力が必要で、居住者が高齢化す ると、こうしたパワーが低下してしまいがちなのです。 マンションの寿命はどれくらいか  マンションは建てた時から劣化が始まっています。マンションの 建物や設備を長期間にわたり適正に維持・管理していくには、まず 2、30年先を見据えた長期修繕計画を立てることが重要です。これ は大まかなものでかまいません。そこに主な仕上げや建築金物か ら給排水、エレベーター設備等設備の一通りの更新を盛り込んで おけば、それだけでも漠然とした不安から解放されます。これを2、 3年ごとに見直しましょう。
 マンションの寿命はどのくらいなのか?あるデータによれば、木 造・鉄筋コンクリート造等あわせての日本の住宅の平均寿命は26年 といわれています。イギリスの75年、アメリカの44年に比べ、随分短 いスパンです。マンションの寿命は5、60年でいいのでしょうか。本 来、適時適切に大規模修繕を繰り返せば100年でももつはずです。 住宅は「どれくらいもつか」ではなく、「どれくらいもたせたいか」を 考えるべきだと思うのです。よく例に挙げるのですが、木造の法隆 寺は解体修理を繰り返しながら1300年現存しています。木造で1300 年保つのだから、鉄筋コンクリート造なら、きちんと施工し、維持・管 理すれば2000年保たせられると私はなかば本気で考えています。 大規模修繕工事をきちんと繰り返す  第1回目となる最初の大規模修繕では、新築時の建物不具合箇 所を慎重に調査して、その部分をきちんと修理しておくことがポイ ントになります。1回目の改修をきっちり行っていれば、2回目の改修 は比較的スムーズにいくものです。2回目は新築時仕様と、1回目の 工事履歴を考慮して補修することになりますが、2回目にはじめて修 繕する屋上防水などについても失敗のないよう、慎重な施工が求 められます。3回目以降の大規模修繕工事は、技術的にも難しくなり ます。築年の古いマンションの場合、仕様も機能面も現代のもの より数段劣るため、改修でなく取替え工事が多くなることも予想 されます。さらに、これら物的劣化への修繕工事に加え、その時代 の社会環境や技術水準に応じて、耐震性能向上やバリアフリー 化、情報通信設備の整備など、居住機能のグレードアップが必要に なる場合もあります。そして今後、3回目、4回目の大規模修繕工事 を迎えるマンションでは、多くの居住者は引続き建物を継続使用 するのか、建て替えをするのかの選択を迫られることになるでしょ う。建て替え事業には、居住者の合意形成や必要な資金の調達を はじめ、様々な困難が伴います。建て替えについては、大規模修繕 との二者択一ではなく、大規模修繕は粛々と進めて、全く別のア プローチも必要と考えてください。
 大規模修繕は、このように、そこに込められる思いや難題がたく さんあります。漫然とではなく、テーマをもって大規模修繕にか かっていただきたいと思います。 美しく歳を重ねる建物を目指して  外壁等の大規模修繕とは別に、給排水、電気、エレベーター等設 備の改修計画を立て、20年~50年間隔の修繕を順次行うことも必 要になります。こうした改修をきっちりやっておけばその部分はさら に30年~50年延命されます。そのための資金として、負担は少なく ありませんが、長期修繕計画を根拠に、管理費とは別に、実質的に 必要となる修繕積立金として1戸あたり月額1万円、できれば1万3千 円以上を確保する必要があります。長期修繕計画をロードマップ に、管理費を節約したり、駐車料等の収益金を積立金に回すなりし て、その範囲内であわてずに持続可能な修繕を行っていくというイ メージを持っていただければと思います。
 なお、ソフト面での対応としては、夏祭りや餅つきなど些細なこと でもいいので、継続していく努力が必要です。何もしないとコミュニ ティはしぼんでいきます。居住者の皆さんがマンションを共有財産 と考え、主体性をもって活動に参画する、そういうマンションであれ ば、築年数が経っても資産価値を高めていけます。どんなに厳しい 状況の中でも希望を持って2、30年先の夢を描いておくことが重要 です。たとえ老朽化が進んでも、適時適切な修繕を通してコミュニ ティが熟成されていけば、建物は歳月と共に美しく老いていきます。

7月29日(日) 第3日目−1

講座 管理規約の改正と管理組合運営について
管理規約の改正と管理組合運営について 講師

マンション管理組合の目的は、
自分達の大切な財産を守ること。
〈講師〉財団法人マンション管理センター 長田 康夫 (おさだ やすお)


大切なのは、マンション内でもめないこと  本日ご来場の方の中には、最近新しく役員になられた方も多々お られることと思います。私はマンション管理センターで色々な相談 をお受けしていますが、マンション管理についての知識習得に熱心 な役員の方が多い管理組合ほど、その運営がうまくいっているよう に感じています。今日はこの講演を通じて、マンション管理について の基礎的な知識を少しでも深めていただき、それを皆さんのマン ション全体の知識を上げることにつなげていただければ幸いです。
 マンションはわが国の重要な居住形態として都市部を中心に定 着してきましたが、その一方で、一つの建物を多くの人が区分して 所有するということから、建物を維持管理していく上で様々な問題 が生じています。マンションに住む人は、それぞれの価値観を基に、 それぞれ異なった意見を持っています。つまり、何か方針を立てよう としても、正しい意見同士がぶつかりあうわけで、ここに合意形成の 難しさがあり、多数決の原理が必要となります。その他に、利用形態 が異なる中での権利・利用関係の複雑さとか、建物構造上の技術的 判断の難しさという課題もあります。このような問題を解決してい くためには、区分所有者の団体である管理組合による適正な管理 が重要となります。適正な管理とは何でしょう。私は、マンション管理 で大事なことは「マンション内でもめないこと」だと常々話していま す。具体的には、例えば管理組合として総会等でもめるような議案 は出さない、意見は事前にできるだけ調整してから提出することな どを徹底してはどうかと考えます。 役員はボランティアではない  マンションに住むには、マンションの特性を理解しないといけま せん。マンションは一つの建物に共有でない複数の所有権が存在 する特殊な形態であり、区分所有者は専有部分だけでなく、共用 部分も持つことになります。共用部分は自分のものでありながら 自分のものではない状態にあるわけで、その持分割合は専有部 分の床面積の割合によります(規約で別段の定めも可能)。した がって、自分一人の範囲の理解だけでなく、マンションで起こった ことは全員の問題だと認識することが重要です。管理組合は法で 定められた区分所有者が全員で構成する団体であり、脱会するこ とはできません。任意団体である自治会とは、その点が違います。
 では、管理はどうすればいいのか。皆で集まって、各マンション に合ったように決めていく。これが原則です。あらかじめ決められ ることは規約にして決めておく。皆で決めた規定である管理規約 はいわばマンションの憲法です。決められたことは守ります、また 嫌でも守らなくてはなりません。権利と義務は背中合わせなので す。また、間違って考えている方が多いのですが、役員はボラン ティアではありません。管理組合の目的は自分達の大切な財産を 守ることにあります。役員も自分の財産を守るために活動するわ けで、組合員一人ひとりと目的は同じであることを確認してよく話 し合いましょう。 マンションの実情を考慮して、管理規約の見直しを!  管理規約は管理組合で決めるものですが、必要なら改正するこ ともできます。規約の変更・改正を検討する際は、国土交通省がモ デル規約として公表している「標準管理規約」を参考に、全体的な 見直しをすることをおすすめします。標準管理規約は昨年7月に 改正されましたが、その中で、役員のなり手不足等の実態を踏ま えた「役員の資格要件の緩和(現住要件の撤廃)」、理事会の決議 事項の明確化、新年度予算成立までの経常的な支出を理事会承 認により可能とする手続規定、総会でもめる一因ともなっていた 「議決権行使書・委任状の取扱いの適正化」、さらには管理組合の 財産の適切な管理等、これまでより一歩踏み込んだ改正がなされ ています。また、マンション標準管理規約の位置づけについても、 各マンションの個別の事情を考慮して、必要に応じて標準管理規 約を修正し活用することが望ましいと、コメント欄に記載されてい ます。これは、例えば居住者の構成等に変化があり、条文どおりの 運営では不都合がでる場合は、改正を考えてくださいよという意 味です。規約の設定、変更、廃止は区分所有者及び議決権の各4分 の3以上の多数による総会決議が必要とされています。管理規約 の改正を組合員に知ってもらうためには、あらかじめアンケートで 意見を募ったり、説明会等を通じてその内容について理解しても らうように努めることが大切です。
 なお、どんなことを基にマンション管理をしていけばよいかにつ いては、国土交通省のホームページにある「マンションの管理の 適正化の推進に関する指針」に簡潔にまとめられているので、ぜ ひとも読んでおいていただきたいと思います。
http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000270.html

7月29日(日) 第3日目−2

講座 ガス管のリニューアル
ガス管のリニューアル 講師

古くなったガス管は、
早めのお取替えをおすすめします。
〈講師〉大阪ガス株式会社 脇田 大樹 (わきた だいき)


 近年、土中に埋設され古くなったガス配管の腐食に起因するガス漏れ 事故が報告されています。土中に埋設されているガス配管は、長年にわた り、土の性質や水分などの影響を受け、徐々に腐食が進み、老朽化してい る可能性があります。そのため、大阪ガスでは、平成10年頃より、経済産業 省からの指導に基づき、1975年以前に建てられた建物に対し、埋設ガス配 管を、腐食や地震に強いポリエチレン管等にお取替えすることを積極的に おすすめしております。
 ガス配管の資産区分は、敷地境界によって、道路側(大阪ガス資産)とお 客様敷地内側(お客さま資産)に分かれています。従って、敷地内のガス配 管のお取替えについては、お客さま負担となります。なお、お取替え費用 の一部を国が補助する「ガス導管劣化検査等支援補助金」という制度が あります。これは、各種条件にあてはまる建物の埋設ガス配管お取替え工 事に対し、最大で対象工事費用の1/4(上限2000万円)が補助されるもの です。
 安心して都市ガスをご利用いただくには、皆様がご自身で安全管理を するという考え方が大切です。お取替えには、費用負担が必要となります が、腐食によるガス漏れが発生することのないよう、古くなった埋設ガス 配管については、ぜひ早めのお取替えをおすすめいたします。

お問合せ
大阪ガス(株) 大阪導管部 設備改善チーム 経年内管改善グループ
TEL:06-6586-1107

7月29日(日) 第3日目−3

講座 マンション管理組合の災害への備え
マンション管理組合の災害への備え 講師

高層マンションにおける
LCP(生活継続計画)の観点から
〈講師〉清水建設株式会社 技術研究所 村田 明子 (むらた あきこ)


研究の背景と東日本大震災後のマンション被害調査  私どもの研究所では、平成20~22年度国土交通省助成事業として、神 戸大・大阪大等3団体と共同で「集合住宅の安全安心『21世紀型コミュニ ティ』構築支援システムの技術開発」という研究開発を行ってきました。 3年間の事業終了直前に大震災が発生し、安全・安心なコミュニティを考 える上で、被災したマンションの現場を実際に見てこないことには何も 始まらないと思い、仙台や浦安、首都圏のマンション12件を訪れました。 地震後どのような状況が発生し、それに対し誰がどう対応し、生活の復 旧をどう進めていったのかなどについて、それぞれの管理組合の皆さん からお話を伺いました。
 本日はそのヒアリング調査結果を基に、なるべく多くの事例を紹介して、 大地震が起こったとき皆さんのマンションでどういうことが起こり得るか 想像力を逞しくしていただくヒントになればと思っています。 建物被害と地震直後の避難行動  2011年3月11日に発生した東日本大震災では、重大な構造的被害が発 生したマンションは、阪神・淡路大震災に比べて少なかったものの、外壁亀 裂やタイルはく落、エキスパンション・ジョイント損傷等の被害、液状化に 伴う水道・ガス等のライフライン停止など、自宅での生活を継続する上で の様々な障害が発生しました。
 地震直後の行動として、まず、避難が行われました。非常放送設備で防 災センター前への集合が呼びかけられたり、避難場所として定められてい た屋外の広場に在宅者が集合したりしました。ある超高層マンションでは、 高層階に住む幼児連れの女性ら約50人が1階に避難したのですが、その 後エレベーターが長時間停止し自宅に戻れず、紙オムツや離乳食を求め る人が多かったと聞きました。特に高層階に住む人は、地震時にはエレ ベーターは停止するという認識を持ち、高齢者や幼児等を連れての避難 をする上での持ち出し品を予め準備しておくことが大切です。 被災後に行われた組織的活動  被災後のマンションでは様々な活動が行われていました。在宅していた 理事や役員などで災害対策本部が設置されたところもありました。災害 対策本部の活動として、安否確認や救助、施設・設備の点検、炊き出し、水 汲みなどが行われました。意外に大切だったことは被災直後の写真撮影 で、地震保険金請求や罹災証明等に大いに役立ったと伺いました。
 管理組合と自治会が並存する大規模マンションでは、組織的な活動が 迅速に行われ、管理組合が施設点検・環境整備等のハード面を、自治会が 安否確認や避難所運営等の人的対応等のソフト面を担当するというよう に、うまく役割分担されていました。
 避難生活・復旧に向けた活動としては、集会室やエントランス・ホール 等の共用施設を利用して話し合いや準避難所の運営が行われ、非常放送 設備・掲示板等を活用した情報伝達が行われました。災害後の活動の上 で、マンションに付帯する共用施設・設備が効果的に活用されていたこと が印象的でした。
 情報伝達の方法としては、既設の全館放送設備や非常放送設備が非常 に役立ったという事例の他、放送設備のないマンションでは掲示板やチラ シ配布、ハンドマイク、メーリングリスト等が用いられた事例もありました。 被災後の生活継続を支えるしくみ  調査を通じて感じたことは、被災後の生活継続を支えるしくみとして、 施設・設備や活動主体、運営が重要だということです。まず、共用施設・設備 として、居住者が集まる屋外の広場や、話し合いができる集会室、情報伝 達のための一斉放送設備が必要です。特に、超高層や大規模マンションで は、避難希望者が多数発生する可能性があるため、避難所として転用可 能な空間を予め計画しておく必要があるでしょう。
 このたびの大震災では、管理組合の理事だけでなく、地震発生前から 活発に活動していた自治会役員や自主防災組織、シニア組織のような居 住者組織のメンバーが自主的に集まって、建物やライフライン設備の被 害をふまえて柔軟に対応したことが明らかになっています。被災後の生活 継続を支えるのは居住者組織であり、皆さんのマンションでも、居住者同 士が日頃からコミュニケーションをより緊密にすることで防災意識を共有 し、居住者名簿を整備するなどして災害に備えていただきたいと思います。