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平成17年度シンポジウム                「安心・安全なマンションライフをめざして」

安心・安全なマンションライフをめざして
 阪神・淡路大震災から、はや10年が経過し、最近では、新潟県中越大震災、スマトラ沖地震、福岡県西方沖地震などが発生しました。 今後、東南海地震、南海地震等の発生が予想されています。こうした地震に対して、あなたのマンションの防災対策は十分でしょうか。
 今回のシンポジウムでは、神戸大学の大西助教授による「マンションの地震防災と危機管理」と題した基調講演、耐震診断、耐震改修の具体的内容の事例報告、安心・安全なマンションライフをおくるために、管理組合として取り組むべき課題などについてパネルディ スカッションを行い、大変好評でした。その要約をご紹介します。 基調講演:基調講演マンションの地震防災と危機管理
安全とは何か?  マンションに関わるいろんなリスクの中の一つとして地震災害を取り上げますが、その前提として、マンションの安全とは何か、を考えないといけない。ヴィトルヴィウスはギリシャ・ローマ時代の紀元前の建築家で「建築十書」を書いた人です。この人が建物を作っていく時に大事なことが、「強」「用」「美」の3つあると書いております。安全を考える場合、私は「コスト」というか「費用」の問題を入れて、4つで考えればいいと思っています。 巨大地震と海溝型地震のメカニズム  最近起こった地震で一番大きいのはスマトラ沖の地震です。これがなぜ巨大地震と呼ばれるかというと、神戸でもかなり大きな被害を受けましたが、スマトラ沖の大地震のエネルギーは神戸の地震に対して4000倍とか5600倍ぐらいと言われています。
  地震がどうして起こるかというと、地球は十数枚のプレートと呼ばれる薄い岩盤で覆われています。プレートは年間数センチの速度で移動しており、太平洋プレートは1年で8センチずつ北北西に移動しています。十数枚のプレートが激しくぶつかっている所では、いろんな問題が起こっています。海側の方が陸側にぶちあたっているところでは、重い海側が沈み込みます。このとき起こる摩擦力が、耐えきれなくなって、ポンと跳ね上がる。これが海の底で起こる海溝型の地震です。 震度とマグニチュード  地震とは何か、と言われた時に、実は一般の方の認識と、専門家の認識がちょっと違います。一般の方に聞くと、「グラグラ揺れることだ」と答えられる。ところが、専門家に聞くと、「地下で断層がずれる」という答えが返ってきます。それぞれ別に間違っているわけではありません。「地下で断層がずれる」という現象に着目して地震の大きさを表したのが、マグニチュードであり、「地面が揺れる」という程度を表したものが震度です。
 注意していただきたいのは、マグニチュードの値は、一つ違うとエネルギーは32倍違います。だからマグニチュード8と7とでは、エネルギー量で32倍違います。値が2つ違うと、2乗になりますから約1000倍となります。 地震の発生確率  地震発生確率が最近発表されるようになりました。この予測値をどう理解するかも大事です。地震には、大きく分けて直下型の地震と、海溝型の地震の2通りがあります。直下型地震が1000年くらいの単位で起こり、海溝型地震が百数十年ぐらいの単位で起こります。次の地震までの期間が長い直下型地震は誤差の幅が非常に大きくて、50〜300年くらいずれる事がざらにあるため、発生確率では非常に小さな値しか出ない。だから、直下型地震の場合、3%くらいでも十分高い確率として受け止めるべきです。 阪神大震災後に変わったこと  阪神大震災の後で、いろいろなことが変わりました。
  一つは、フロー中心の考え方から、ストック重視の考え方に政策も含めて大きく転換してきている。耐震性の問題にしても、以前から言われていましたけど、この震災後、耐震改修の促進法ができ、今ある建物の耐震性を十分なレベルに上げていくことが努力義務として課されるようになっています。
  二番目に、役所にマンションの担当ができました。これは意外に思われるかも知れませんが、震災前までは、法律の中にマンションなんて言葉がどこにもなかった。最近は法律もでき、役所がマンションを相手にしてくれるようになったということです。
  三番目としては、地震防災対策が強化されました。地震の発生確率という形で、地震についての情報提供が行われるようになりました。ここで重要なのは、情報を提供されても、受け止める側がその情報を理解して、適切な対応をとらないと、提供している意味がないということです。 書いておぼえる教訓集  書いておぼえる教訓集を用意しました。この3つを覚えて帰ってくださったら、僕の話の半分は理解してもらえたと思います。
  まず一つ。「地震は防げないけど、○○は防げる」。この○○には「震災」が入ります。地震による被害全般を震災といいます。地震と震災とは違います。つまり、地震は地球上で起こる自然現象の一つだから誰も止めることができません。だけども、その地震を前提にして、例えば、建物を丈夫にしていく、あるいは備蓄を含めていろんな対策をたてることによって、いろいろ起こりうる被害を軽減することは可能なんです。
  二番目に、「壊れてからどうするか悩むより、○○○○ように、どうするかが大事」。これは「壊れない」です。壊れるかどうか分からない時にどうしようかと悩んでも仕方がないから、専門家に頼んで、一定の強さが備わっているかどうかを確認してもらう。その上で、壊れる可能性が高ければ、きちんと対応して壊れないようにしておく。そうすれば悩みは消えます。
  三番目に、安全を技術論にしないで、日頃からの○○力を鍛える」。ここは「想像」ですね。他のいろんな所で起こっている地震災害とかを注意深く見ていれば、「自分のところだと、こんなことが起こりそうだ」ということがだいたいわかります。ちょっと頭を働かして、いろんな場面や状況を想像することが防災の基本です。 事例報告:マンションの耐震診断と耐震改修について〜概要と事例紹介〜
耐震診断とは何か?   建築基準法に基づいて、最低限の耐震性能を持つかどうかを、「現地調査」と「構造計算」によって検討することが耐震診断です。ただ単に計算するだけでは駄目です。建物は個々に状況が違いますから、現地調査をし、住戸の中を見せていただいて、それから計算するという非常に手間がかかるものなんですね。
  手法としては、建物の構造耐力、変形能力、経年劣化を含めたIs値(保有値)という指標がありまして、それを計算します。これは建築防災協会の基準で決まっています。強度×変形能力、いろんな係数をかけ算していってIs値が求められ、Iso値(必要値)が 0.6以上あるかどうかで判定します。今までずいぶんと耐震診断をやりましたが、昭和56年以前の建物はだいたい0.6以上ありません。ですから耐震改修の設計施工へと進むことになります。 耐震改修について  耐震改修の基本的な考え方は、縦軸を強度、横軸を靭性(変形能力)とします。壁を増やせば耐力があがります。変形能力を増やすには、柱にフープを入れたり、周りに鉄板やカーボン繊維を巻く。結果、ボーダーラインを超えると安全になるという計算です。ですから壁や筋交いを増やすだけが補強ではありません。
  一般的な耐震改修工法ですが、建築防災協会が改修指針をだしています。耐力を増やす方法として、壁、鋼板壁、ブレースなどを増設する。靭性向上として、鋼板やカーボン繊維シートを巻く。それから荷重を低減する方法とか、いろいろあります。
  最近は、新しい手法として、免震や制振が出てきました。例えば屋上にTMDという水槽みたいなものを置き、地震がきたら逆方向に自分で動いて揺れを止める。あるいは複数棟あると、ここを制振装置、オイルダンパーなどで繋いでお互いにエネルギー吸収する。同じことを足下でやると免震工法になる。こういう大掛かりな方法もあれば、小さな制震ダンパーを入れてエネルギー吸収力を増やす。阪神大震災以降、非常に技術が進歩しました。
  一般的に耐震には、言葉として、耐震・免震・制震があります。耐震は力で抵抗する。力には力で抵抗する。免震は、下が揺れてもコロなどで滑るようにして、力を逃がす。制震は、一応は揺れてもエネルギーを吸収する。こういう3つの工法があり、これらをうまく使えば、マンションは大丈夫だと考えられています。
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